卒論を提出した&口頭試問が終わった!毎日全力をあげて書きましたかと言われれば全くそうではないのだが、とにかくこの1年間くらい、心にずっと重石のようにのしかかっていたのでやっと終わって嬉しい。
しかし提出する直前に緊急事態宣言が発令されてしまい、提出したからといって旅行したり友達と飲みに行ったり出来なくなってしまった。ということで、家で映画を観た。その中で良かった映画の感想。
マイブルーベリーナイツ(My Blueberry Nights)
ウォンカーウァイ映画!何を観てもやっぱりウォンカーウァイの作品が一番好きだなと思うけど、この作品だけは観ていなかった。英語作品ということでなんとなく異質な気がしていたのだ。でも観てみたら全然異質じゃなかった。
恋人の心変わりで失恋したエリザベスは、元恋人の家の向かいにあるカフェに出入りするようになる。毎晩、ブルーベリーパイを用意してくれるオーナー、ジェレミーと話すことで、徐々に慰められていくエリザベス。しかし、どうしても終わった恋を引きずってしまう彼女は旅に出る決心をする。
ロードムービーのような作りで、ニューヨークと、主人公・エリザベスが滞在したメンフィスとネバダ、ラスベガスでの出来事が描かれる。最初の都市では一組の破綻したカップル、もう一つの都市では一人のギャンブラーと出会う。主人公が中心となって物語が動いていくというよりも、主人公は彼らの人生を一緒にいつつ眺めている感じ。主人公はエリザベスだしメインの筋はエリザベスとジェレミーの話なんだけど、印象としては群像劇に近いと思う。
この話は有り体に言えば主人公が成長する話だけど、旅をしている間主人公はまじで存在感が無いのが面白い。
主人公が出会うカップルとギャンブラーはやることがむちゃくちゃかつ華やかで、主人公は完全に脇に追いやられて呆気にとられつつも彼らと一緒にいる。その間、観客は主人公と一体化して彼らの人生を眺めたりハラハラしたりしているのだが、そのおかげか?主人公がなぜ旅を通じて、終わった恋にケリをつけられたのかすごく理解できる。あんなもん見ちゃったら元彼とかどうでもよくなるな!
エリザベスが失恋を乗り越えられた理由が、他の恋人を見つけたからでも恋愛に絶望しきったからでもなく、「他人の人生をたくさん見たから」というのがすごく良かった。
一番恋愛に捉われない解では?エリザベスの中で恋愛の位置が上がったりも下がったりせず、ただただ、今回の失恋の重みだけが軽くなる。エリザベスの最後の台詞がめちゃくちゃ良くて再生しまくってたら暗記した。
キャストがこの筋にぴったりはまってて、エリザベスを演じるのはノラ・ジョーンズ!大きい丸い瞳が印象的だが、いかにもアメリカの感じのいい若者って感じで、旅先のパートではうまく存在感を消していた。でもジェレミーのカフェにいるときは魅力全開で、意思が強そうである。ウォンカーウァイが彼女ありきで製作を進めたのがよくわかる。しかもBGMで彼女が歌っている曲がちょくちょく流れるのもいい。ノラ・ジョーンズの歌声がカフェに合わないわけないし。
そしてジェレミーを演じたジュード・ロウの安心感たるや!いつ誰が見ても「かっっっこいい〜…」って言うんじゃない?私は何回も言った。なんかダンディなイギリス紳士のイメージだったけど、カフェオーナーの青年という役もできるんですね。彼のエリザベスを見つめる視線が、恋する惑星で最後、フェイを見つめる警官663の表情にかぶった。
ちなみにエリザベスが旅中に出会う人々は、ナタリー・ポートマン、レイチェル・ワイズ、デヴィッド・ストラザーンが演じている。名優が勢揃い!演技がすごいのはもちろんだが、滲み出る華やかさが映画に合っていた。
アマプラでもU-NEXTでも観れます!
ラブソング(甜蜜蜜)
夢を抱いて中国大陸から香港に渡って来たばかりの青年シウクワンは、同じ大陸出身者のレイキウと、返還直前の活気あふれる香港の街角で出会う。大陸出身ということを隠し、器用にたくましく社会にとけ込んで働くレイキウと、純朴で優しいシウクワン。一見対照的な二人の出会い、別れ、そして再会するまでを、激動の香港を舞台にテレサ・テンの名曲に乗せて贈る、切なくも温かい10年に及ぶ恋物語。
(引用:Amazon)
舞台が大きく分けて3つあって、二人が香港で出会う1986年、一旦別れるも香港で再会する1990年、そしてまたも離れ離れになるがニューヨークで再会する1995年。
まずこの最初の1986年の街の描写が良すぎて、一気に引き込まれた。二人は若くまだ香港で生計を立てていこうとしているところなので、高層ビル等よりも、シウクワンのバイト先の肉屋とか屋台みたいな、下町っていうのかな?香港の普通の街角が映されていて、たまらん!!
↑この動画は解説動画で最後まで見たらネタバレになるが、映像が写っているので
それに二人が、香港に馴染めず落ち込んだりしつつも、いつか一山当ててやるという希望を持って生きている姿は、二人のことが好きにならざるを得ない。シウクワンはいかにも鈍臭いけど、すごく優しい。レイキウに結構ひどいことを色々と言われているのに、にこにこして彼女に着いてってるのがかわいい(し、可哀想)。レイキウもレイキウで、しっかりして頭が良く度胸もあるが、どう考えてもその商売に資本を突っ込むのはやばいだろということを自信満々にすることがあり、勢いが心配になる。
この最初の1986年のところでもう二人のことが好きになってしまうので、そのあとの離れたりくっついたりも最後まで見届けてやるぜ!という気持ちになる。
どうでもいいけど私はマギー・チャンの目の形がすごく好きだ。つり目だけど中央は縦に膨らんでて、独特の魅力がありませんか?彼女が美しさを放っている映画はやっぱり花様年華がレベチだと思うけど、この映画もすごくかわいい。
あとレオン・ライが、天使の涙ではあんなに全てがダルそうな殺し屋を演じていたのに、この映画では真逆の目をキラキラさせた純朴男でしかもそれが自然で驚いた。役者すげ〜
これはU-NEXTで観れます!
グリーンデスティニー(卧虎藏龙)
剣の英雄たちが群雄割拠する時代。天下の名剣“グリーン・デスティニー”の使い手としてその名を轟かせる英雄リ-と女弟子ユーは、心惹かれ合いながらも長い間人々のため正義に生きてきた。リーは剣を置く決意をしてグリーン・デスティニーをユーに託し、依頼されたティエ氏に無事剣を届けたユーは、そこで貴族の娘イェンと出会う。その夜、グリーン・デスティニーが何者かに盗まれ、ユーはイェンを疑い彼女の家を訪ねる。
Netflixで観た。最初の方は主に北京が舞台で、名剣の盗難騒ぎをめぐって物語が進む。ここら辺は武侠映画、それも精神性を重んじるような真面目なやつっぽくて、私は武道の心得を語られるとしらけてしまうので、ぶっちゃけ数回挫折した。
が、はじめ1/3を過ぎたあたりで時代が飛んで、名剣を盗んだと疑われている貴族の娘・イェンの昔話になると、舞台が突然砂漠に移り、ガラッと雰囲気が変わる。イェンは昔、家族で西域へ移動する途中、砂漠で盗賊の一味に襲われた。盗賊たちは財宝が目当てでありイェンに害は及ぼさなかったが、盗賊の長・ローがイェンの櫛を奪ってしまう。するとイェンは馬に飛び乗り、櫛を取り返すためローを追いかける。
そこからしばらくイェンとローは追いかけっこ状態が続くのだが、この砂漠を駆け回るイェンの自由で楽しそうなこと!
櫛が本当に大事というより、暴れまわる口実に櫛を使っているようにも見える。イェンは櫛を取り返すためにローを説得したり、何かを代わりに差し出したりしない。ただただローを殴り追いかけ取っ組み合いをする。屋敷の中で鬱屈としているイェンを冒頭で観ているからこそ、全力で暴れまわるイェンはすごく魅力的だ。最終的にローとイェンは恋人関係になる。
回想部分が終わってもイェンは暴れ続ける。色々あってイェンは江湖に行くのだが、江湖でも挑んでくる相手をしきたりガン無視で吹っ飛ばす。
映画の冒頭でイェンは結婚なんてしたくない、女剣士にこそ憧れると言っているが、その思想が爆発している感じだ。何か目的を持って戦うというよりも、ただただ楽しそうに江湖で剣を振っているように見える。
多分この映画は英雄リ-と弟子ユーの関係とか戦う者の使命みたいなのもテーマだろうけど、私はとにかくイェンに目が釘付けになり、彼女に圧倒されていたら2時間が終わった。わけのわからない絶大なエネルギーが好きなんだと思う。
こちらのツイートを見て私もオーダーしたい!となった時に、真っ先に思い浮かんだのもイェンだった。
Celesシネマ、リクエストした天使の涙のモウ(金城武)イメージの香水が映画の中のモウのイメージぴったりで本当よかった。糖度の高い果実の甘いけど爽やかな香り6:新しい畳の香り2:雨の香り2って感じ。初恋の概念を香りにしたらこれ 残り香は雨の香港を彷彿とさせる哀愁で選んだ人天才 pic.twitter.com/efTRcD0IzU
— Rai (@AtWhatCostflac) January 14, 2021
そして届いた香水がこれ。
ぴったり過ぎて拍手しちゃった。つけた瞬間は緑の香りが強く、時間が経つとイチジクのような香りがふわっと広がる。まさに草原を駆け回るイェン!!!他にもいくつかの映画をオーダーしたが、この香水が一番しっくりきた。
ふたりの人魚(苏州河)
上海でビデオの出張撮影の仕事をしている男。仕事は順調とはいえず暇をもてあまし気味。ある日、撮影先で人魚のように美しい水中ダンサーのメイメイにひと目ぼれする。ふたりはつきあい始めるが、彼女には謎めいた行動が多かった。しかもある日、彼女のことを自分の恋人のムーダンだと言い張る男まで現われて……。
原題は蘇州河、蘇州から上海を流れる川のことを指す。この川を下る小舟からの映像が時々登場するが、映画全体を通してもなんだか川に揺られて流されていく感覚がある。
正直ストーリーやキャラクターはそんなに刺さらなかった。マイブルーベリーナイツとは対照的に、この映画はひたすら恋愛を掘り下げていく。私は恋愛はそんなに大事じゃないので合わなかった。(映画の出来ではなく好みの問題)恋愛が好きな人は好きだと思う。
ただ、映像に浮遊感があり、退廃的なネオンカラーが印象的で、かつ物語の中心人物ではなく素性がよくわからない人物が語り手となり話が進んでいくところがすごくよかった。語り手には一応ビデオ撮影を職業にする男、という設定が付与されているが、実際は語り手=蘇州河なんだろうなという感じがする。
あと、メイメイとムーダンの二役を演じる周迅の演技に凄みがある。なんとなく、ムーダンは周迅が昔演じていた役(「女帝」の夜宴とか)、水中ダンサーのメイメイは今周迅が演じることが多い役(「画皮II」とか「你好,之華」の之華とか)に似てて、それを一つの映画でどっちもやってるのがすごい…と思ったけど、今調べたらこの映画は「女帝」よりも全然前の映画だった😂 この時周迅24歳だったのか〜すでに大女優…
U-NEXTで観ました!
Mr. Long / ミスター・ロン
ナイフの達人・殺し屋ロン。東京、六本木にいる台湾マフィアを殺す仕事を請け負うが失敗。北関東のとある田舎町へと逃れる。日本語がまったくわからない中、少年ジュンやその母で台湾人のリリーと出会い、世話好きの住民の人情に触れるうちに、牛肉麺(ニュウロウミェン)の屋台で腕を振ることになる。屋台は思いがけず行列店となるが、やがてそこにヤクザの手が迫る……。
(引用:https://mr-long.jp/)
ロンが北関東に行き着くまではヤクザ映画と同じ感じで、説明セリフはなく静かな雰囲気のまま殺しが行われる。
で、北関東の田舎町に逃れてロンはジュンや住人に出会うのだが、人情に触れる系のシーンになっても、ロンが殺しをやっているシーンと同じ雰囲気のまま続くのがめっちゃ面白い。
ロンが流れ着いた町は最初結構得体の知れない感じで描かれていて、ジュンも素性がわからない(が妙に親切な)子供なのだが、その雰囲気のまま、突如お節介な住民たちが登場する。
あらすじや予告編では孤独な男が田舎の人情に出会う!という感じだが、実際観てみると人情物語という感じはあまりせず結構乾いた印象である。住民が自分たちのペースでお節介をやき、ロンは言葉がわからないので「???」という顔で流されていくのがシュールで笑える。ていうか私は何回か声だして笑った。
ロンと住民の間で会話はほぼ成り立ってないし、ロンとジュン・リリーも会話が多いわけではないのだが、住民がロンを気にいる理由とか、彼らが徐々にお互いを大事に思っていくのはなんとなくわかる。展開が自然で、妙に笑えるので私はすごく好きでした。
ただ回想シーンなどのリリーの悲劇性を強調するシーンだけ、どこか他の映画から悲劇の女のシーンを抜き出して取り付けたみたいで残念だった。なんかどっかで観たことあるシーンの寄せ集め感がすごくて、お?これは映画の悲劇性を演出するために女の不幸を使うやつか?と思ったし今も思っている。他のシーンが好きだっただけに残念だった。
これもU-NEXTで観ました!
ハーレイ・クインの華麗なる覚醒 BIRDS OF PREY(Birds of Prey)
これは劇場で観た方も多いでしょう!ハーレイ・クインの華麗なる覚醒。U-NEXT・Amazon Primeだと課金がいるけどNetflixだといらないです。
悪のカリスマ=ジョーカーと別れ、すべての束縛から解放されて覚醒したハーレイ・クイン。モラルのない天真爛漫な暴れっぷりで街中の悪党たちの恨みを買う彼女は、謎のダイヤを盗んだ少女カサンドラをめぐって、残忍でサイコな敵ブラックマスクと対立。その容赦のない戦いに向け、ハーレイはクセ者だらけの新たな最凶チームを結成する。
アドレナリンがどばどば出る映画だった。サイコー!!!
まず、ハーレイは映画の冒頭でジョーカーとのロマンスが始まった工場の付近を落ち込みながらフラフラ歩いているのだが、トラクターを見つけると「I have the best idea!」と叫び、トラクターを奪って工場に突っ込ませ、爆破する。爆破と言えど、ピンクや青や緑のカラフルな炎がどーんと打ち上がり、祝福の花火みたいだ。
ハーレイがやってることは無茶苦茶だし、トラクターを盗まれた運転手からしたらbest ideaじゃねえよという感じだが、爆破がすごく綺麗で同情を忘れてぶち上がってしまう。そして粉末を背景に浮き上がる「BIRDS OF PREY AND THE FANTABULOUS EMANCIPATION OF ONE HARLEY QUINN」のタイトル!
工場を爆破したことでジョーカーと別れたことが公になり、今までのハーレイの悪行をジョーカーへの恐怖を元に見逃していた人々に、ハーレイは追われることになる。逃亡したりなんやかんやにうちに、ハーレイの他にも色々な背景を持った女性が4人集まり、みんなで協力して敵やラスボス・ブラックマスクに挑むというさいこ〜な映画だ。
ブラックマスクを演じたユアン・マクレガーがこのインタビューで語っている通り、この映画のセリフには女性が日常的に体験する女性差別が詰まっている。
一番ぐさっときたのは、ハーレイが最後仲間に「Sorry, I underestimated you.(ごめん、あなたを過小評価してた)」と言われて、「It's okay, I'm used to it.(大丈夫、慣れてるから)」と返すところだ。男性キャラクターが言う女性差別的なセリフにもハーレイは真っ向から反論はしないのだが、それがすごくリアルで心臓にくる。
しかし、ハーレイが現実と違うところは、とにかく強い&暴力を振るうことにためらいがないところである。男性キャラクターがハーレイに自分の保護が必要だとかジョーカーなしでは何者でもないとかクソゴミ発言をかました次の瞬間、彼らはハーレイの金属バッドやハンマーによって派手に葬られる。
男性キャラクターがハーレイや他の女性キャラクターに投げかける言葉が、日常的に女性がかけられる台詞だからこそ、彼女たちが彼らを圧倒的優勢でぶん殴る姿の爽快感が半端ない。
また、ブラックマスクがラスボスと思いきや一人になると激弱なのがウケた。ブラックマスクの強さは富と群がる子分たちで構成されていたのであり、本人にハーレイに対抗する力がある訳ではなかったのだ。ヒーロー映画と思えばブラックマスクがあっさりと引き腰になるのは味気ないが、「ブラックマスク=女性差別的な権力者」と思えばどうか?
タイトルにある「emancipation」とは、普通「解放」と訳されることが多いと思うが、「覚醒」と訳したのもすごくいいなと思った。解放というと縛っていた存在(=ジョーカー、男女差別)の影をいやでも感じざるを得ないが、覚醒というとそういった影に付きまとわれることなく、本来の自分が開花したという感じがする。ブラックマスクはハーレイは自分の保護が必要だと言うが、ハーレイが自身の力を発揮するためには、お前は要らないのだ。
ハスラーズ(Hustlers)
これもU-NEXTとアマプラだと課金がいるが、Netflixなら無しで観れる。
ハーレイ・クインと同じく、痛快な女性たちの物語として宣伝されていた映画だと思う。ハーレイ・クインはその通りだが、ハスラーズは私は痛みの方を感じて数日間思い出しては気分が落ち込んだ。実話を元にしているだけある。
リーマンショック後のニューヨークを舞台に、ストリップクラブで働く女性たちがウォール街の裕福なサラリーマンたちから大金を奪う計画を立てたという実話を、ジェニファー・ロペスと「クレイジー・リッチ!」のコンスタンス・ウーのダブル主演で映画化。
年老いた祖母を養うためストリップクラブで働き始めたデスティニーは、そこでひときわ輝くストリッパーのラモーナと出会う。ストリッパーとしての稼ぎ方を学び、ようやく安定した生活が送れるようになってきたデスティニーだったが、2008年に起こったリーマンショックによって経済は冷え込み、不況の波はストリップクラブで働く彼女たちにも押し寄せる。いくら働いても自分たちの生活は向上しない一方、経済危機を起こした張本人であるウォール街のエリートたちの裕福な暮らしは変わらず、その現実に不満を募らせたラモーナが、デスティニーやクラブの仲間を誘い、ウォール街の裕福なクライアントから大金をだましとる計画を企てる。
主役を張ったコンスタンス・ウーもジェニファー・ロペスも、めちゃくちゃ演技が上手い。ジェニファー・ロペスは華やかさと包容力が圧倒的で、まさにストリッパーみんなに慕われ、憧れられる存在・ラモーナである。物語の語り手であるデスティニーは、登場人物の中で一番感情やラモーナとの関係のぶれを細かく映されていると思うが、コンスタンス・ウーの演技はすごく自然で説得力がある。Crazy Rich Asiansの時よりよっぽど当たり役だと思う。
また、冒頭にCardi BやLizzoなど、今をきらめく𝒬𝓊ℯℯ𝓃𝓈が登場して、デスティニーやラモーナと共に金を稼ぎまくるのは確かに爽快だ。
しかし、詐欺を計画する段になると、100%爽快感!痛快!とは思えなかった。
理由の一つに、騙された金融マンたちが、ものすごく悪い奴としては描かれていないことがある。
ストリッパーたちを屈辱的に扱う男たちは登場するが、彼女たちが金を騙し取る相手は、彼女たちを踏みつける描写が明確にはない金融マンも含まれている。ウォール街で働いた後にバーで飲んでいたら彼女たちに声をかけられて、舞い上がって話している間にドリンクにドラッグを入れられるみたいな…。景気が良かった頃の昔の顧客もターゲットにされるが、映画の中で「景気が良かった頃」は、デスティニーやラモーナにとってうまくやれば客から大金を取れる良い時代として描かれており、彼らが彼女たちを搾取した様子はわかりやすくは描かれていない。
彼女たちがこのやり方を取ったのはすごくリアルだろう。彼女たちは悪を成敗するスーパーヒーローではなく、経済危機でまともな職がなく、ストリップクラブに戻ったとしても稼げないどころか性被害にまで遭う労働者なのだ。誰にも頼らず生活するために詐欺を働いているのであって、今まで自分たちを踏みつけた人々を精査して成敗するためではない。
しかし、ターゲットを見極めなかったことが一因となって、結局彼女たちの計画は止められる。
もう1つの痛快と思えなかった理由は、最終的に状況があまり改善されているようには思えないことだ。この映画はハッピーエンドではない。この計画が露呈したところで労働者の権利を保証する仕組みができた訳でもなく、ウォール街のエリートたちは変わらず裕福な暮らしをし、ストリップクラブでは適正価格を払わずにストリッパーを搾取しようとするんだろう。
気分が落ち込んだのは、法律も含めて、この社会のルールはラモーナやデスティニーのような人間にとって圧倒的に不利にできているということを再度突きつけられたからだと思う。そして、私はそのルールの上でだいぶ得をしている。デスティニーを取材する女性記者が登場するが、私はすごくこの人に似ているなと思った。