ラーメンとミュージカル

好きなこと書く

『恋する惑星』1996年の批評和訳

恋する惑星の話をおまえは何年するんだという感じですが、映画の煌めきを切り取ってきたような、素敵な批評を偶然見つけたので備忘録的に日本語訳します。

www.latimes.com

恋する惑星』は愛をスタイリッシュに描く


ウォン・カーウァイの『恋する惑星』は、降りしきる雨のようにみずみずしく、痛みとユーモアに満ちた愛の物語である。混雑した香港の街角で素早く、時に激しく撮影されたこの作品は、極めて個人的な短文で語られ、最も流麗なカメラを通して表現され、大胆な色彩とアメリカン・ポップミュージックの力強い破裂で区切られている。

 

我々が目にする香港映画の多くが武侠ジャンルの時代ファンタジーか現代アクション・スリラーである一方、恋する惑星』は、失われた愛と取り戻しかけた愛という古典的な不朽の物語を紡ぎながら、日常生活の即時性を魅惑的に、誘惑的に醸し出している。王家衛は、クエンティン・タランティーノジム・ジャームッシュという2人の個性的な映画監督を思い起こさせるような、まったく予測不可能なスタイルの持ち主といえる。

 

警官223号としか呼ばれない、ハンサムで優しい性格の若い警官(金城武)は、サングラスにトレンチコート、金髪のウィッグをかぶった謎の女性(ブリジット・リン)に「0.01メートル」まで接近し、57時間後に彼女に恋をすると我々に告げる。彼がちょうど1ヶ月前に別れた恋人を失った痛みを癒している間、金髪の女は、香港の閉塞的な観光地の中心にある巨大な迷路のようなテナント兼バザールの重慶大厦を駆け回っていた。彼女はインド商人たちと麻薬密輸の取引をしていたが、手品師の消える演技のような華麗さで彼らに裏切られ、命を危険にさらされる。バーで223号とすれ違う頃には、彼女は酒を飲んで忘我の境地に達するしかなかった。

 

第一部と呼ばれる「重慶大厦」が手際よく幕を閉じると、223号はもう一人の0.01メートル以内に接近した女性、フェイを我々に紹介する。フェイは、第二部のタイトルにもなっている「ミッドナイト・エクスプレス」で働き始めたばかりだ。このバーには223号だけでなく、もう一人の警官633号(トニー・レオン)もよく通っている。彼は恋人から別れの手紙を受け取ったばかりだった。


フェイはぎこちなくてとても若く、自分の人生をどうしたらいいのかわからないけれど、それを見つけようと決心している。彼女は『勝手にしやがれ』のジーン・セバーグ風の髪型をしており、意気消沈している633号を気にかけるようになる。フェイは633号に恋心を抱き始めるが、自分に自信がなく、それを口に出すことができなかった。代わりに、彼女は彼のアパートに忍び込み、彼を元気づけようと微妙に模様替えをする(しかし、そのせいで彼は、自分は確実に正気を失っていると思うようになる)。

 

王家衛自身が失恋の喪失感に苦しんだから、一人だけでなく二人もの男を通してそれを表現する必要性があり、二人ともにおかしな癖をつけたのではないかと強く疑いたくなる。223号はパイナップルの缶詰に執着しており、賞味期限が5月1日の缶詰だけを買い続ける。5月1日は彼の25歳の誕生日でもあり、人が死を意識し始める年齢でもある。223号にとって、5月1日以降は彼にとって、恋人が彼のもとを去ったという事実があまりにも明らかになり、また人生のすべてに賞味期限があることがあまりに示唆されてしまう、耐え難いものだった。同様に、663号は小さなアパートで無機質の物体に心の内を打ち明けている。

 

王家衛は、カメラの扱い方と同様、俳優の扱い方も素晴らしい。もちろん、彼の名撮影監督クリストファー・ドイルや、映画の雰囲気を作り上げた作曲家たちも敬礼に値する。

 

特にフェイ・ウォンは、カナダの中国系女優サンドラ・オーのように、強烈で独創的な個性を持っており、風変わりな喜びを与えてくれる。金城とレオンは感じが良く魅力的な男たちを演じ、なぜ彼らが恋人に捨てられるのか、私たちは彼らと同じように当惑せざるを得ない。しかし、王家衛はもっと大きな視点で、運命や感情、結ばれるよりも結ばれなかった縁の気まぐれさについて、考えにふけっている。

 

“重庆森林”用时尚诠释爱情

王家卫的“重庆森林”清新如雨,是一个充满痛苦和幽默的爱情故事。这部作品拍摄于拥挤的香港街头,采用了时而敏捷时而激烈的拍摄手法,用极其个性化的短文表述,最流畅的镜头表达,并用大胆的色彩和美国流行音乐的重爆破音进行分隔。

 

我们看到的香港电影大多是武侠类的古装奇幻片或现代动作片,而“重庆森林”一边描绘着已经失去与几乎快要破镜重圆的爱情故事,一边用魅惑迷人的方式营造出日常的一帧帧画面。提到王家卫的电影常常会让人想起另外两位个性化导演,他们的电影都有着完全无法预测的风格。

 

只有223号名字的英俊善良的年轻警官(金城武饰)告诉我们,他跟身着风衣、带着墨镜和金色假发的神秘女性(林青霞饰)接近到“0.01米”的距离,并将在57小时后爱上她。当他正在为一个月前分手的女友感到痛苦时,金发女郎正在位于香港闭塞景区中心的巨大迷宫一般的出租楼兼集市地重庆大厦跑来跑去。她与几个印度商人进行着毒品走私交易,却被他们魔术师一般的消失术所欺骗,面临生命危险。当她在酒吧与223号擦肩而过时,她正在买醉。

 

当标题为“重庆大厦”的第一个故事迎来巧妙结局时,223号给我们介绍了另一位他接近到“0.01米”的女性,阿菲(王菲饰)。阿菲刚刚开始在兰桂坊的一家快餐店Midnight Express(第二个故事的标题)工作。除了223号,另一位警官633号(梁朝伟饰)也是这里的常客。他刚刚收到了女友寄来的分手信。

 

阿菲是一个笨拙的非常年轻的女孩子,她不太确定自己想过什么样的人生,但决心要找到答案。她顶着“断了气”的珍·茜宝短发,担心着沮丧消沉的633号。她已经开始喜欢上他了,但因为对自己太不自信,所以不敢说出口。她擅自进入他的公寓,为了让他开心细微地更换装修布置(但这让他觉得自己肯定是疯了)

 

看了电影的人一定会强烈怀疑王家卫一定是因为自己遭受了失恋的痛苦,所以一定要用两个男人来表现这种痛苦,况且这两个人还都有奇怪的癖好。223号执着于凤梨罐头,只买5月1号到期的罐头。因为5月1日这天是他25岁的生日,也就是人们会意识到自己死亡的年龄。对于223号来说,超过5月1号意味着他的恋人已离他而去,暗示着生活中的一切都会到期。同样,663号总是在小公寓里向着没有生命的物体倾诉。

 

王家卫的选角与他的拍摄手法同样出色,当然,也必须向他的御用摄影大师杜可風,和给电影塑造氛围的作曲家们致敬。

 

特别是王菲,她像加拿大华裔女演员吴珊卓一样有着强烈的独特个性,风格多变,带给人惊喜。金城武和梁朝伟扮演那么英俊迷人的男性,我们像他们一样困惑,为什么女友会抛弃他们?但王家卫以更宏大的视角,思考命运与情感的无常,错过往往比圆满更美。

 

タイミング的に公開直後にLA Timesの誌面に載った批評でしょうか。中国語訳の授業の題材を探していて偶然見つけたのですが、あまりにも軽やかで的を得ていて映画の魅力をそのまま映し出しているようで、読み入ってしまいました。特にラストの一文「Wong takes the larger view, musing on the capricious of fate and emotions--of connections more missed than made.」が、王家衛の作品の魅力を、作品の空気感そのまま、見事に表現していると思います。

王家衛の新作ドラマ「繁花」

中国で王家衛の新作ドラマ「繁花」が大ヒット中だ。

 

このドラマ、版権を取得したのは2013年だというから、制作全体で10年もかかったようだ。さすがの王家衛である。そのおかげで私は、中国に留学しているタイミングでドラマを追いかけられることになった。

www.youtube.com

90年代の上海はチャンスと希望に満ち溢れていた。青年・阿宝は、改革開放の風に乗ってビジネスの道を切り開き、黄河路に知らない人はいない新進気鋭の事業家「宝総*1」となる。阿宝の周りには師匠の爺叔、「夜東京」のオーナー玲子、上海外国貿易局の汪小姐という人々がいる。

ある時、神秘的な女性・李李が黄河路に舞い降りた。彼女が経営する料亭は街全体をかき回していく。宝総の事業にも激動がもたらされ、身近な人との関係もかつてない試練を迎えることとなる。(参考:百科

 

このドラマは、上海出身の小説家・金宇澄が、2012年に出版した同名の長編小説を原作としたものである。王家衛は香港の監督というイメージが強いが、元々は上海出身で、5歳のときに香港へ移住したそうだ。「花様年華」でも、主人公2人が暮らすアパートの住人が上海語を話すシーンがある。

小説「繁花」について、王家衛は「上海版の『清明上河図』のような作品」「上海人と上海文化の辞書」と評しており、原作者に初めて会った際には「これは自分の姉や兄の物語だ」と伝えた、と語っている。

 

ドラマと小説でストーリーは全然違うらしいが、ドラマの重点もやはり上海版の『清明上河図』、つまり当時の上海社会の一部を、王家衛の視点から描くことにあると言っていいだろう。*2

以前王家衛の映画について「社会を感じないところが好き」と書いたことがあるが、今回のドラマはむしろ反対である。また、映画とは異なり、30話あるドラマなので、映画に比べてわかりやすい物語が存在し、物語の展開を通じて登場人物を細やかに描いていく。なので、これまでの考えるな感じろ的な王家衛映画とはかなり毛色が違う印象を受ける。

musicallyrics.hatenablog.com

 

しかし、今回の物語にも、これまでの映画と変わらない王家衛の哲学がしっかりと流れていて、映画とはまた違った形で登場人物が立体的に浮かび上がってきて、想像以上に傑作だった。

 

私が王家衛映画の「社会を感じないところが好き」な理由は、登場人物を、当時の社会情勢や「恋人」「夫婦」といった関係に付与される規範に安易に回収させずに描くからこそ、かえって登場人物ひとりひとりの内面が鮮やかに魅力的に浮かんでくるからだ。

この登場人物に対する深いまなざしは繁花でも健在である。

後ろ盾を拒否する女性たち

私がこのまなざしを最初に感じたのは、阿宝と汪小姐・玲子の関係性の変化を描くシーンだった。

ドラマの前半、汪小姐は上海外国貿易局の職員として阿宝の商売を助け、玲子は阿宝と一緒に開いた「夜東京」のオーナーとして、阿宝が安心できる場所を提供している。

二人とも阿宝と深い絆で結ばれているが、彼女たちが阿宝に対して本当に欲しているのは恋愛感情であり、それが阿宝から返って来ることはない。しかし、謎の美女・李李の出現を機に、汪小姐と玲子はそれぞれ現実を思い知ることとなる。

ここまではよくある色男をめぐる恋愛物語である。阿宝にとって、汪小姐は可愛らしい彼女、玲子は安心感を与えてくれる妻のような存在として描かれている。

しかし、李李の出現を機に現実を見つめ直した時、汪小姐と玲子が最も大きなショックを受けるのは、「阿宝が自分を愛してくれないこと」ではなく、「阿宝の名前がないと何もできない自分」だった

汪小姐がちやほやされるのは皆阿宝に繋いでくれることを期待しているからだし、玲子が「夜東京」の経営をなあなあに続けていられるのは阿宝の財力があるからなのだ。恋愛面での打撃を機に、自分の人生を見つめ直した結果、二人は阿宝ありきの自分を抜け出すことを選ぶ。

「阿宝と女性たち」という構図をとっておきながら、「女性たち」は決して阿宝の付属品にならない。

阿宝との関係は感情のみならず経済的な関係も大きかったから、阿宝ありきの自分を抜け出すのは簡単ではないのだが、二人が苦労を重ねて一つ一つ前に進んでいく様子は爽快感と開放感があり、そして絵として美しい。

 

黄河路にやってきた謎の美女・李李と阿宝の関係も面白い。ドラマの中で、黄河路の料亭は「ただ食事をする場所ではなく、商売を成立させる場所」として描かれており、李李たち老板娘は、阿宝たちビジネスパーソンの商売を左右する、対等な相手として描かれる。

李李と阿宝は恋愛関係ではないが、ただの商売相手でもない、独特な関係を築いていく。これって男性と男性の間だとよくドラマに出てくる関係性だが、女性が絡むと、ほとんどのドラマで「恋愛関係」もしくは「結局女性が男性に助けてもらう関係」という安易な類型に収束されていってしまう。

この類型に収まらないのが、さすが王家衛である。

 

李李・汪小姐・玲子の関係も良い。玲子と汪小姐はお互いの新しい道を支援しあい、李李も汪小姐の可能性を見込んで支援し、玲子が李李が経営する料亭に来た際には「夜東京」のオーナーとして特別丁寧に応対する。

3人はそれぞれ阿宝と深い繋がりがあるけれども、3人の関係は阿宝によって定義されない。

自立した人間なので当たり前のことだが、それを当たり前のこととして描く作品は少ない。

映像の美しさ

脚本の良さだけでなく、映像の美しさも健在だった。正直脚本がゴミだったとしてもこの映像なら30話見れる。

影と光の使い分け、立体感、鏡の多用、物陰からぬすみ見ているような撮り方、欲望の翼花様年華のオマージュ等、もうファンとしてはたまりませんでした!!

www.bilibili.com

役者全員、これまでの作品で一番美しく撮られており、特に胡歌(阿宝)と辛芷蕾(李李)は、花様年華にも引けを取らない美しさだった。

実際、12話には花様年華のような、二人が雨に濡れた道を歩くシーンがある。また、狭い階段で肩が触れるようにしてすれ違うシーンも多々登場する。二人の視線はめったに交差せず、常に一方の目線は鏡の中か、どこか遠くに外れている。

余談だが、中国語を勉強し始めて、「すれ違う」にあたる中国語の言葉として「擦肩而過」という言葉があることを知った時、花様年華まんまじゃん!と感嘆した。以降、この言葉を見るたびに私の脳内では常に花様年華の映像が流れている。

また、今回観ていて何となく思ったのは、王家衛のこのとにかく美しい映像は、群像劇とかなり相性が良いのではないかということだ。

このドラマは上記の阿宝と爺叔、3人の女性以外にも、元カノの雪芝、親友の陶陶、大家の葛老师、取引相手の範総・魏総、玲子の友人の菱紅、玲子を追いかける強総、汪小姐の師匠の金花、同僚の梅萍、李李の部下の潘経理・敏敏、汪小姐が左遷された先の工場長・老範、李李を敵視する盧美琳、黄河路で成功しようともがく小江西などなど、多くのキャラクターが登場する。

王家衛は彼らをただの脇役にせず、一方で彼らの物語を一から細かく説明することもなく、それぞれのハイライトとなるシーンを圧倒的に美しく深い映像で映すことによって、一人一人のキャラクターを際立たせ、我々観客を一人一人に感情移入させることに成功していると思った。

彼らが画面に映る時間は限られているはずなのだが、観客が菱紅が玲子のもとから去るシーンで涙し、金花が汪小姐に切手を贈るシーンで涙し、範総と汪小姐が「江湖再見!」と言って別れるシーンでまた涙するのは、映像の力も大きいと思う。

私が男性キャラクターで一番好きなのは魏総

日本で育った者として胸熱だったのは、16話の銀座を舞台としたシーンだ。

まだ阿宝がそこまで成功していない頃、彼は日本の商社の知り合いである山本さんに会って取引を成約させなければならず、一人で東京に来る。山本さんに夜、銀座のクラブで会おうと言われ、言葉がよくわからないまま訳もわからず銀座に来るのだが、そこで上海話を話す女性に偶然出くわす。これが玲子で、彼女の助けで阿宝は山本さんと上手く話を進めることができ、仕事を軌道に乗せることができる。

それから数ヶ月して、玲子の元に阿宝から封筒が届く。封筒には上海行きのチケットと、玲子が阿宝に話した夢を叶えるある物が入っていた。

玲子と一緒に私たち観客が目を見開いて感極まったとき、小田和正の「ラブストーリーは突然に」が流れ始めるのだ!

www.bilibili.com

歌詞とメロディと年代と、全てがこのシーンに合っていて、玲子の感情が胸に迫ってくるようで、「ああ、だから玲子はこんなにも阿宝のことを愛しているんだな」と心から納得できる名シーンだ。

驚いたのは、このシーンの弹幕に多くの中国人が「東京ラブストーリーだ!」「青春を思い出す」と書いていたことだ。

当時、中国でも大流行し、特に上海では他の地域より一足早く放送されたようである。私は東京ラブストーリーの世代ではないというか、観たことすらないのだが、日本で生まれ育った私が観たことのない作品を、当時中国で育った人々(の一部)が青春の象徴として記憶しているのは、両国の文化が混ざり合っていくようで感慨深く感じてしまった。

執迷不悔

ラブストーリーは突然に」以外も、劇中で使われた音楽は全部素晴らしかった。私のお気に入りはフェイ・ウォンの「執迷不悔」だ。この曲は途中から汪小姐のテーマ曲のような扱いで、彼女が自分で考えて自分で決断する時、この曲が流れる。汪小姐が汪小姐から小汪へ、小汪から汪総へ脱皮する姿を彩るような曲として、恋する惑星のフェイ役・フェイウォンの曲が使われてるのはぐっとくるものがある。

我不是你们想得如此完美
我承认有时也会辨不清真伪
并非我不愿意走出迷堆
只是这一次
这次是我自己而不是谁
要我用谁的心去体会 
真真切切地感受周围
就算痛苦 就算是泪 
也是属于我的伤悲
我还能用谁的心去体会 
真真切切地感受周围
就算疲倦 就算是累 
也只能执迷而不悔

 

わたしはあなたたちが思うような完璧じゃない
本物か偽物か見極めがつかない時もあるけど
わたしは絶対にこのこだわりから抜けたくない
今この時は この瞬間は 他の誰でもない私でいたい

誰の心で感じろというの 
はっきりとわたしの周りをわたしの体で感じるの
たとえ苦痛でも 涙しても 
これは他の誰でもない私の悲しみ
ほかの誰かの心で感じられるというの
はっきりとわたしの周りを体で感じるの
たとえ疲れてへとへとになっても 
まだわたしはやっぱりこだわることしかできない

 

http://yazumichio.blog.fc2.com/blog-entry-240.html

 

私が劇中で一番好きなのは李李だが、最も感情移入して泣いたのは汪小姐だ。彼女が阿宝の助けを拒否して自立を選ぶ過程は、見ようによっては頑迷で、現実が見えていなくて、「執迷不悟(まちがった考えに固執して悟らないこと)」にも見える。それでも自分のこだわりを捨てず、苦難の末「自分の埠頭」を獲得する姿は、自分自身の辛い時を重ねて彼女を好きにならざるを得ない。

 

原作の結末だと、汪小姐は出産することになっているそうだ。インタビューで、王家衛はこれを彼女の自己実現の物語に変更したと言っていた。出産が自己実現にならないとは思わない(し、王家衛もそう言ったわけではない)が、汪小姐の結末が出産のみで起業というストーリーがなかったら、彼女はここまで多くの観客を惹きつけなかっただろう。玲子や李李の結末も然り、繁花では最後、すべてのキャラクターが、自分で決断して、自分の道を歩んでいく。

王家卫:上海女人的底气主要来自她们是全国第一批经济独立的半边天。我们保留了原著里面汪小姐的敢爱敢恨,把她的追求从延续生命生孩子改成她个人的自我完成

繁花[沪语版]【特辑】主创解读角色两面性_电视剧

自分で決断するというのは孤独が伴う。繁花でも、キャラクターたちは自分で決断した結果、黄河路を去り、上海を去り、大切な人との縁が切れていく。しかし、そこには解放感が確かに漂っている。阿宝も例外ではない。彼のラストシーンは、「ブエノスアイレス」で最後に流れる「Happy Together」のような、繁花の中で最も王家衛らしさを感じる、不思議な清々しさであった。

过去无所不在
遇到过的人 发生过的事 组成我们的身体发肤 呼吸心跳
生命之树循环往复
我们知道自己在每个春天会开出什么样的花
也知道秋天一定不会结出什么样的果
但我们依然会期待下一个冬去春来
繁花似锦 赤子之心常在
人不响 天晓得

www.youtube.com

*1:「総」は「総経理(=社長)」の略で、姓の後につけて社長に対するよびかけに使う言葉。相手の実際の役職が社長でなくとも相手への敬意を表すために使うことも多い。このドラマにも色々な「○総」が登場する

*2:このドラマには普通話(中国全土で話されている標準語)と上海方言バージョンがある。現場で俳優が話しているのは上海方言で、撮り終わった後に同じ俳優が吹き替える形で普通話バージョンを作成している。私は自分の勉強のために普通話バージョンで観ていたが、そんな私ですら上海方言バージョンの方が圧倒的に良いと感じたので、日本に上陸する際には上海方言バージョンに日本語字幕を当てる形で配信してほしいなと思う!ちなみに原作は全て上海方言で書かれているが、日本語訳本はこれを関西弁で訳している。私は上海方言は全くわからないし、関西弁話者でもないので、ニュアンスの違いを比較できないのが残念だが、中国語の方言を日本語の方言で訳せる人材がいることにびっくりした。

小さな中国のお針子と若き仕立て屋の恋

小さな中国のお針子

文化大革命期の中国。再教育のため山奥へ送られた医者の息子マーとルオは、過酷な重労働の合い間に村のお針子である美少女に出会い恋をする。やがて彼らが読み聞かせる西洋の小説が、彼女の人生を変えていく。

(引用:https://moviewalker.jp/mv33164/

陈坤が観たくて借り、ドンピシャだった。恋愛をあまり真剣でないタッチで描き、若さや社会情勢や人間としての自立が絡んでくるという、いかにも私が好きそうな感じの映画だったw

舞台である山村の雄大な風景、村人の服装、マーとルオのいかにも若者という感じのエネルギーと傲慢さ、そして二人の無意識なコントロールを大きく裏切っていくお針子、全部良かった。刘烨かっこいい😭

小さな中国のお針子 [DVD]

小さな中国のお針子 [DVD]

  • 発売日: 2003/11/07
  • メディア: DVD
 

 「フランスの小説が中国の田舎者を変える」というテーマはいかにもオリエンタリズム丸出しで、実際この映画は監督は中国人だがフランス資本である。なので、私もマーとルオが西洋の小説を盗み出し、これをお針子に読み聞かせて「お針子を無知から救おう」と話しているところは、自分にも覚えがあるしこの年代なら言いそうなことだなと思いつつ、フランス資本の映画でこれ…おえっっっとなった。

しかし、マーとルオが持ち込んだ西洋の文化やフランス文学は、村やお針子に徐々に変化をもたらすのだが、その変化の描き方があまりオリエンタリズムらしくないなと思った。なんというかすごくリアルなのである。

マーとルオはフランス文学をフランス語で読んでおらず、中国語翻訳を読んでいる。お針子は文字が読めないので、彼らに読み聞かせてもらう。ルオはバイオリンを村に持ち込み咎められるも、毛主席に捧げられた曲と嘘をついてモーツァルトを弾き、村人に受け入られる。村長はバイオリンの音色は気にいるが、フランス文学をお針子の祖父に読み聞かせていたマーとルオを公安局に突き出そうとする。

マーやルオ、お針子、そして村人たちはみんな、西洋文化に影響を受けるが、彼らがどうやって・どういった形で西洋文化に触れ、何に影響を受け、それがどう彼らの生活を変えていくかはそれぞれ異なる。

それがすごくリアルである。マーとルオは西洋の文化によってお針子を啓蒙しようと考えるが、それも西洋文化の影響と考えると面白い。

 

また、バルザックなどの西洋文学の著者と同じくらい、翻訳者にも光が当てられているのが良かった。作品の途中で、ルオが知り合いの医者に頼みごとをする場面がある。頼みごとのお礼としてバルザックの作品をあげますと言って、服の裏に書き留めた中国語訳されたバルザックの作品を読み上げる。すると医者は翻訳者の名前を挙げ、彼の文体はすぐにわかると言う。そして医者が彼のような優れた文章を書く人間も今は反動分子として投獄されたと言うと、ルオは不意に号泣する。

 

なんとなくだが、実際に非西洋圏で育った人間でないと、このようなやり取りは書けないんじゃないかと思った。非西洋の人間が西洋文化に初めて触れるとき、ほとんどは原語では読まずに自国の言葉に訳された作品を読むはずである。それは文革時代の中国だけでなく、現代の日本でも同じだろう。なぜなら自国の言語で読んだ方が早いし、楽だし、何より手に入りやすいからだ。

そういった状況で西洋文化が人間に影響をもたらすには、元の書籍と同じくらい、「翻訳」が重要になる。

複数の文化圏の作品を理解できること自体すごいことだが、それに加えて翻訳者自身が優れた文章を生み出せる人物でないと、元の文学がいくら優れていてもその伝播力・影響力はほとんどゼロになるだろう。また、この「翻訳」は多層的でもある。マーとルオは中国語訳された作品を、文字の読めないお針子やお針子の祖父のために読み聞かせるが、中国語を話し、飽きないような話し方ができ、彼らの知らない単語をわかりやすいよう(文革という社会情勢を踏まえて)説明したりすることができないと、この役割は務まらない。

 

つまり、作品が他の文化圏の人間に影響をもたらすには、ほとんどの場合その作品の力だけでなく、その作品を理解し違う文化圏に様々なレベルで翻訳する者の力が絶対に必要で、彼らなしに文化が広がっていくことはありえない。

この映画はそこに光が当てられており、翻訳されていく過程もリアルだと思った。だから「西洋文化が中国の田舎者を変える」という筋でも、オリエンタリズムの香りがあまりしない。監督の戴思傑のWikipediaを見たら、実際に四川省下放を経験し、そのあとフランスに留学した人ということがわかって納得した。

 

周迅演じるお針子は、マーとルオの「教育」を受けた結果、自由を渇望して二人が知らないところに飛び立ってしまうさいこ〜なキャラクターなのだが、本人も最高だった。

というのも、映画を観終わった後、メルカリでパンフレットを手に入れたのだが、周迅が役者インタビューに答えていた。インタビュアーからの質問で「バルザックのことは以前から知っていましたか?」というものがあった。映画の内容を考えれば、以前から知っていようと知っていなかろうとバルザックや西洋の文学の素晴らしさや影響力に触れる流れになりそうなところだ。しかし、周迅は

あなたは、魯迅郭沫若や曹雪芹や巴金を知っていましたか?

と返すのである。爽快感ヤバ!!!てか、頭良!!!!

劇中ではそんなにオリエンタリズムぽくないとはいえ、食傷気味になるくらいバルザックバルザックと繰り返されるので、周迅のこの返しは映画全体をひっくり返す清々しさがある。

若き仕立て屋の恋、2046

DVDプレイヤーが手に入ったので、買ったまま放置していたウォンカーウァイの「若き仕立て屋の恋」と「2046」を観た。若き仕立て屋の恋は短編ということも関係するのか、ウォンカーウァイにしては珍しくしっかりしたストーリーがある。2046は筋は他の作品同様フワフワしているが、2時間越えで割と長め。 

愛の神、エロス [DVD]

愛の神、エロス [DVD]

  • 発売日: 2005/12/22
  • メディア: DVD
 

 

www.youtube.com

ウォンカーウァイの映画は感想を書くのがいつも難しい。記録のためにブログに書いても、何が刺さったのかの10分の1も言い表せない感じがする。

 

部屋でゴロゴロしててふと、ウォンカーウァイが影響を受けた文学作品について、欲望の翼のパンフレットで本人が語っていたのを思い出した。そのパンフレットをなくしてしまいどっかのサイトに載っていないかなと思って検索したら、お目当の情報は見つからなかったがこの批評がヒットした。

この批評ではウォンカーウァイ映画の閉鎖的な空間性が注目されており、「部屋を内側に向けて突き抜けた先に救いがある」と指摘されている。偶然出会った批評だが、胸にすとんと落ちる感覚があった。彼の作品の何が刺さるのか、この批評を読んで、解放感と社会との関係の希薄さが刺さる要素の一部かなとクリアになった気がする。

 

多くのウォンカーウァイの作品では、恋愛がテーマでも、恋愛以外の可能性が常に提示されている。最終的にそのキャラクターが置かれている状況が無茶苦茶なことになっても、最終的に何か外につながるような解放感が見える気がするのが好きなのだ。救いであり、それは常に外につながっている。

閉塞を突き詰めた結果解放を得るというのは全然考えたことがなかったが、この批評を読んで納得したし、私が欲望の翼だけいまいち好きになれない理由の一端が見えた気がした(まあ欲望の翼のカリーナラウは衝撃的にかわいいと思っているので上映してたら観に行くけど)。2046はわかりやすくこの構造だろう。主人公は昔の恋愛に囚われ私生活がぐちゃぐちゃになっているが、自分のホテルの部屋で小説を書くことでぐちゃぐちゃな生活が少し解ける。そこに主人公を救いに来てくれる現実の他者は存在せず、彼の思考のみが彼を変化させられる。

 

また、私はほとんどの彼の映画のキャラクターたちに「社会」を感じないところがすごく好きである。職業がわからない人々も多いし、職業があってもすぐ捨てるし、すぐ香港を出るし、そしてすぐ戻ってくる。設定だけでなく描き方が人物の感情にぐっとフォーカスしていることもあるかもしれない。不倫がテーマの花様年華でさえ、世間が顔をのぞかせるのは大家さんのいくつかのセリフのみである。舞台は現実の社会だから社会との関係が完全に切れているわけではないが、すごく希薄に感じられる。(若き仕立て屋の恋は例外で、珍しく仕立て屋と娼婦という職業がストーリーに強く紐づいている)

 

この批評では、『恋する惑星』のフェイ・ウォントニーレオンも含め他人とのコミュニケーションを拒絶していることを指摘している。あんなに明るい映画なのに!でも確かに、コミュニケーションを拒絶しているからこそ、フェイは社会から切り離されている感じがするのかもしれない。恋する惑星を観たとき、最初に衝撃を受けたのはトニーのかっこよさだったが、決定的に恋に落ちたのは、フェイがトニーと待ち合わせた「California」という店の看板を観て、本当のカリフォルニアに行きたくなって約束をすっぽかして行ってしまったシーンだったことを思い出した。しかしフェイはキャビンアテンダントになってふらっと香港に帰ってきて、トニーは「君のどこでも好きなところ」に飛ぼうと提案する。そこにも私は救いを感じる。

 

最後に、この批評は以下のように述べている。

この論考では、ウォン・カーウァイ的「個室」を個人の孤独や閉塞、硬直の表現とそれ自体はひねりなく受け取りながら、その空間がどのように構成され、かつどのような変容によって開かれようとしているかを考察してきた。こうした読み方は、いささか個人的な方向に傾きすぎたていたかもしれない。ウォン・カーウァイの映画には、その明示的なストーリーがどれほど登場人物たちの私的な孤独や記憶にこだわるものだったとしても、よく見れば「香港」という社会的・政治的な場への言及に満ちているからだ。しかし、「香港」という視点からのウォン・カーウァイ読解が、しばしば「香港」の持ついくつかの定型的イメージ—アイデンティティの希薄さ・流動性、あるいはそれへの反動としての香港アイデンティティの希求、移行期的・経由地的な時空間性など—に寄りかかりがちであることも否定しがたい事実だろう。

この箇所は本当に膝を打ちまくった。今まで読んだ批評は、香港という都市が抱えるイメージや歴史的な経験をウォンカーウァイの作品に重ね合わせるものが多かったが、こういう分析は好みじゃないなと思っていた(間違っていると言っているわけではない)。私がそもそも香港イメージの正当性自体にだいぶ懐疑的というのがあるが、それ以上に、私はウォンカーウァイ映画の社会性が希薄なところが好きなのに、香港の社会的・政治的な文脈を映画の批評に持ち込まれると、社会に引き戻される感じが嫌なんだろう。

 

この批評は、私がウォンカーウァイ映画の好きなところを、私が自分では到達できないところまで深く掘り下げてくれている感じがする。私が今までしてきた勉強は皆、何かしらの形で社会と関わる分野が多かった。政治とかジェンダー論とか。私は勉強を通じて社会構造を語る語彙は獲得してきたが、社会とは関係が希薄だと思いたいものを語る語彙が無いことに気づいた。いつもウォンカーウァイの作品は何が好きなのか語るのが難しいと思ってきたが、それはまず語彙がなかったからなのか!この批評は、私が使いこなせない語彙を使って、私が魅力と感じていたことにより深く切り込んでいく。すごく爽快だった。

 

ドラマ・映画・本・舞台などの感想まとめ(随時更新)

ドラマや映画の感想がちょこちょこ溜まってきたのでここにまとめます。邦題があるものは邦題(原題)で表記しています。

 

ドラマ

鳳凰の飛翔(天盛长歌)

琅琊榜

瓔珞~紫禁城に燃ゆる逆襲の王妃~(延禧攻略)

沉默的真相

バーニング・アイス(无证之罪)

霊剣山(从前有座灵剑山)

宮廷の諍い女(甄嬛伝) 

三国志 Secret of Three Kingdoms(三国机密)

AJ&クイーン(AJ and the Queen

映画

誰かがあなたを愛してる(秋天的童話)

花様年華

恋する惑星(重慶森林)

2046

若き仕立て屋の恋(The Hand)

インファナル・アフェア(無間道)

十年

点対点(點對點)

ラブソング(甜蜜蜜)

先に愛した人(誰先愛上他的)

僕らの先にある道(后来的我们)

Mr. Long / ミスター・ロン

空海-KU-KAI- 美しき王妃の謎(妖猫传

ムーラン(花木兰)

さらば復讐の狼たちよ(让子弹飞)

グリーンディスティニー(卧虎藏龙)

ふたりの人魚(苏州河) 

小さな中国のお針子(巴爾扎克与小裁縫)

マイブルーベリーナイツ(My Blueberry Nights)

ハーレイ・クインの華麗なる覚醒 BIRDS OF PREY(Birds of Prey)

ハスラーズ(Hustlers)

ガールズ・トリップ(Girls' Trip)

クレイジーリッチ!(Crazy Rich Asians)

トレバー・ノア 生まれたことが犯罪! ?(Born a Crime)

ミュージカル舞台

ハミルトン(Hamilton)

ミスキャスト(Miscast)

キンキーブーツ、マンマミーア、アラジン、ブックオブモルモン、ウィキッド、レント

スタンダップコメディ

クレイジーリッチ!(Crazy Rich Asians)

Treat Nazis Like You Treat Women / Jena Friedman

ハーレイ・クイン、ハスラーズ、マイブルーベリーナイツなど

卒論を提出した&口頭試問が終わった!毎日全力をあげて書きましたかと言われれば全くそうではないのだが、とにかくこの1年間くらい、心にずっと重石のようにのしかかっていたのでやっと終わって嬉しい。

しかし提出する直前に緊急事態宣言が発令されてしまい、提出したからといって旅行したり友達と飲みに行ったり出来なくなってしまった。ということで、家で映画を観た。その中で良かった映画の感想。

マイブルーベリーナイツ(My Blueberry Nights)

マイ・ブルーベリー・ナイツ(字幕版)

マイ・ブルーベリー・ナイツ(字幕版)

  • 発売日: 2015/11/15
  • メディア: Prime Video
 

ウォンカーウァイ映画!何を観てもやっぱりウォンカーウァイの作品が一番好きだなと思うけど、この作品だけは観ていなかった。英語作品ということでなんとなく異質な気がしていたのだ。でも観てみたら全然異質じゃなかった。

恋人の心変わりで失恋したエリザベスは、元恋人の家の向かいにあるカフェに出入りするようになる。毎晩、ブルーベリーパイを用意してくれるオーナー、ジェレミーと話すことで、徐々に慰められていくエリザベス。しかし、どうしても終わった恋を引きずってしまう彼女は旅に出る決心をする。

(引用:https://movies.yahoo.co.jp/movie/327838/story/

ロードムービーのような作りで、ニューヨークと、主人公・エリザベスが滞在したメンフィスとネバダ、ラスベガスでの出来事が描かれる。最初の都市では一組の破綻したカップル、もう一つの都市では一人のギャンブラーと出会う。主人公が中心となって物語が動いていくというよりも、主人公は彼らの人生を一緒にいつつ眺めている感じ。主人公はエリザベスだしメインの筋はエリザベスとジェレミーの話なんだけど、印象としては群像劇に近いと思う。

 

この話は有り体に言えば主人公が成長する話だけど、旅をしている間主人公はまじで存在感が無いのが面白い。

主人公が出会うカップルとギャンブラーはやることがむちゃくちゃかつ華やかで、主人公は完全に脇に追いやられて呆気にとられつつも彼らと一緒にいる。その間、観客は主人公と一体化して彼らの人生を眺めたりハラハラしたりしているのだが、そのおかげか?主人公がなぜ旅を通じて、終わった恋にケリをつけられたのかすごく理解できる。あんなもん見ちゃったら元彼とかどうでもよくなるな! 

エリザベスが失恋を乗り越えられた理由が、他の恋人を見つけたからでも恋愛に絶望しきったからでもなく、「他人の人生をたくさん見たから」というのがすごく良かった。

一番恋愛に捉われない解では?エリザベスの中で恋愛の位置が上がったりも下がったりせず、ただただ、今回の失恋の重みだけが軽くなる。エリザベスの最後の台詞がめちゃくちゃ良くて再生しまくってたら暗記した。

 

キャストがこの筋にぴったりはまってて、エリザベスを演じるのはノラ・ジョーンズ!大きい丸い瞳が印象的だが、いかにもアメリカの感じのいい若者って感じで、旅先のパートではうまく存在感を消していた。でもジェレミーのカフェにいるときは魅力全開で、意思が強そうである。ウォンカーウァイが彼女ありきで製作を進めたのがよくわかる。しかもBGMで彼女が歌っている曲がちょくちょく流れるのもいい。ノラ・ジョーンズの歌声がカフェに合わないわけないし。 

www.youtube.com

そしてジェレミーを演じたジュード・ロウの安心感たるや!いつ誰が見ても「かっっっこいい〜…」って言うんじゃない?私は何回も言った。なんかダンディなイギリス紳士のイメージだったけど、カフェオーナーの青年という役もできるんですね。彼のエリザベスを見つめる視線が、恋する惑星で最後、フェイを見つめる警官663の表情にかぶった。

ちなみにエリザベスが旅中に出会う人々は、ナタリー・ポートマンレイチェル・ワイズデヴィッド・ストラザーンが演じている。名優が勢揃い!演技がすごいのはもちろんだが、滲み出る華やかさが映画に合っていた。

 

アマプラでもU-NEXTでも観れます!

ラブソング(甜蜜蜜)

夢を抱いて中国大陸から香港に渡って来たばかりの青年シウクワンは、同じ大陸出身者のレイキウと、返還直前の活気あふれる香港の街角で出会う。大陸出身ということを隠し、器用にたくましく社会にとけ込んで働くレイキウと、純朴で優しいシウクワン。一見対照的な二人の出会い、別れ、そして再会するまでを、激動の香港を舞台にテレサ・テンの名曲に乗せて贈る、切なくも温かい10年に及ぶ恋物語

(引用:Amazon

舞台が大きく分けて3つあって、二人が香港で出会う1986年、一旦別れるも香港で再会する1990年、そしてまたも離れ離れになるがニューヨークで再会する1995年。

まずこの最初の1986年の街の描写が良すぎて、一気に引き込まれた。二人は若くまだ香港で生計を立てていこうとしているところなので、高層ビル等よりも、シウクワンのバイト先の肉屋とか屋台みたいな、下町っていうのかな?香港の普通の街角が映されていて、たまらん!!

www.youtube.com

↑この動画は解説動画で最後まで見たらネタバレになるが、映像が写っているので

 

それに二人が、香港に馴染めず落ち込んだりしつつも、いつか一山当ててやるという希望を持って生きている姿は、二人のことが好きにならざるを得ない。シウクワンはいかにも鈍臭いけど、すごく優しい。レイキウに結構ひどいことを色々と言われているのに、にこにこして彼女に着いてってるのがかわいい(し、可哀想)。レイキウもレイキウで、しっかりして頭が良く度胸もあるが、どう考えてもその商売に資本を突っ込むのはやばいだろということを自信満々にすることがあり、勢いが心配になる。

この最初の1986年のところでもう二人のことが好きになってしまうので、そのあとの離れたりくっついたりも最後まで見届けてやるぜ!という気持ちになる。

f:id:musicallyrics:20210119215517p:plain

引用:https://www.imdb.com/title/tt0117905/mediaviewer/rm3430409216/

どうでもいいけど私はマギー・チャンの目の形がすごく好きだ。つり目だけど中央は縦に膨らんでて、独特の魅力がありませんか?彼女が美しさを放っている映画はやっぱり花様年華がレベチだと思うけど、この映画もすごくかわいい。

あとレオン・ライが、天使の涙ではあんなに全てがダルそうな殺し屋を演じていたのに、この映画では真逆の目をキラキラさせた純朴男でしかもそれが自然で驚いた。役者すげ〜

 

これはU-NEXTで観れます!

グリーンデスティニー(卧虎藏龙)

剣の英雄たちが群雄割拠する時代。天下の名剣“グリーン・デスティニー”の使い手としてその名を轟かせる英雄リ-と女弟子ユーは、心惹かれ合いながらも長い間人々のため正義に生きてきた。リーは剣を置く決意をしてグリーン・デスティニーをユーに託し、依頼されたティエ氏に無事剣を届けたユーは、そこで貴族の娘イェンと出会う。その夜、グリーン・デスティニーが何者かに盗まれ、ユーはイェンを疑い彼女の家を訪ねる。

 (引用:https://eiga.com/movie/1411/

Netflixで観た。最初の方は主に北京が舞台で、名剣の盗難騒ぎをめぐって物語が進む。ここら辺は武侠映画、それも精神性を重んじるような真面目なやつっぽくて、私は武道の心得を語られるとしらけてしまうので、ぶっちゃけ数回挫折した。

グリーン・デスティニー (字幕版)

グリーン・デスティニー (字幕版)

  • 発売日: 2013/11/26
  • メディア: Prime Video
 

が、はじめ1/3を過ぎたあたりで時代が飛んで、名剣を盗んだと疑われている貴族の娘・イェンの昔話になると、舞台が突然砂漠に移り、ガラッと雰囲気が変わる。イェンは昔、家族で西域へ移動する途中、砂漠で盗賊の一味に襲われた。盗賊たちは財宝が目当てでありイェンに害は及ぼさなかったが、盗賊の長・ローがイェンの櫛を奪ってしまう。するとイェンは馬に飛び乗り、櫛を取り返すためローを追いかける。

そこからしばらくイェンとローは追いかけっこ状態が続くのだが、この砂漠を駆け回るイェンの自由で楽しそうなこと!

櫛が本当に大事というより、暴れまわる口実に櫛を使っているようにも見える。イェンは櫛を取り返すためにローを説得したり、何かを代わりに差し出したりしない。ただただローを殴り追いかけ取っ組み合いをする。屋敷の中で鬱屈としているイェンを冒頭で観ているからこそ、全力で暴れまわるイェンはすごく魅力的だ。最終的にローとイェンは恋人関係になる。

www.youtube.com

回想部分が終わってもイェンは暴れ続ける。色々あってイェンは江湖に行くのだが、江湖でも挑んでくる相手をしきたりガン無視で吹っ飛ばす。

映画の冒頭でイェンは結婚なんてしたくない、女剣士にこそ憧れると言っているが、その思想が爆発している感じだ。何か目的を持って戦うというよりも、ただただ楽しそうに江湖で剣を振っているように見える。

www.youtube.com

多分この映画は英雄リ-と弟子ユーの関係とか戦う者の使命みたいなのもテーマだろうけど、私はとにかくイェンに目が釘付けになり、彼女に圧倒されていたら2時間が終わった。わけのわからない絶大なエネルギーが好きなんだと思う。

こちらのツイートを見て私もオーダーしたい!となった時に、真っ先に思い浮かんだのもイェンだった。

 そして届いた香水がこれ。

f:id:musicallyrics:20210120171025p:plain

https://www.celes-perfume.com/product/goutal%E2%80%90ninfeo-mio/

ぴったり過ぎて拍手しちゃった。つけた瞬間は緑の香りが強く、時間が経つとイチジクのような香りがふわっと広がる。まさに草原を駆け回るイェン!!!他にもいくつかの映画をオーダーしたが、この香水が一番しっくりきた。

ふたりの人魚(苏州河)

上海でビデオの出張撮影の仕事をしている男。仕事は順調とはいえず暇をもてあまし気味。ある日、撮影先で人魚のように美しい水中ダンサーのメイメイにひと目ぼれする。ふたりはつきあい始めるが、彼女には謎めいた行動が多かった。しかもある日、彼女のことを自分の恋人のムーダンだと言い張る男まで現われて……。

(引用:https://www.uplink.co.jp/film/2001/52533

原題は蘇州河、蘇州から上海を流れる川のことを指す。この川を下る小舟からの映像が時々登場するが、映画全体を通してもなんだか川に揺られて流されていく感覚がある。

 

正直ストーリーやキャラクターはそんなに刺さらなかった。マイブルーベリーナイツとは対照的に、この映画はひたすら恋愛を掘り下げていく。私は恋愛はそんなに大事じゃないので合わなかった。(映画の出来ではなく好みの問題)恋愛が好きな人は好きだと思う。

 

ただ、映像に浮遊感があり、退廃的なネオンカラーが印象的で、かつ物語の中心人物ではなく素性がよくわからない人物が語り手となり話が進んでいくところがすごくよかった。語り手には一応ビデオ撮影を職業にする男、という設定が付与されているが、実際は語り手=蘇州河なんだろうなという感じがする。

あと、メイメイとムーダンの二役を演じる周迅の演技に凄みがある。なんとなく、ムーダンは周迅が昔演じていた役(「女帝」の夜宴とか)、水中ダンサーのメイメイは今周迅が演じることが多い役(「画皮II」とか「你好,之華」の之華とか)に似てて、それを一つの映画でどっちもやってるのがすごい…と思ったけど、今調べたらこの映画は「女帝」よりも全然前の映画だった😂 この時周迅24歳だったのか〜すでに大女優…

www.youtube.com

U-NEXTで観ました!

Mr. Long / ミスター・ロン

ナイフの達人・殺し屋ロン。東京、六本木にいる台湾マフィアを殺す仕事を請け負うが失敗。北関東のとある田舎町へと逃れる。日本語がまったくわからない中、少年ジュンやその母で台湾人のリリーと出会い、世話好きの住民の人情に触れるうちに、牛肉麺(ニュウロウミェン)の屋台で腕を振ることになる。屋台は思いがけず行列店となるが、やがてそこにヤクザの手が迫る……。

(引用:https://mr-long.jp/

ロンが北関東に行き着くまではヤクザ映画と同じ感じで、説明セリフはなく静かな雰囲気のまま殺しが行われる。

で、北関東の田舎町に逃れてロンはジュンや住人に出会うのだが、人情に触れる系のシーンになっても、ロンが殺しをやっているシーンと同じ雰囲気のまま続くのがめっちゃ面白い。

www.youtube.com

ロンが流れ着いた町は最初結構得体の知れない感じで描かれていて、ジュンも素性がわからない(が妙に親切な)子供なのだが、その雰囲気のまま、突如お節介な住民たちが登場する。

あらすじや予告編では孤独な男が田舎の人情に出会う!という感じだが、実際観てみると人情物語という感じはあまりせず結構乾いた印象である。住民が自分たちのペースでお節介をやき、ロンは言葉がわからないので「???」という顔で流されていくのがシュールで笑える。ていうか私は何回か声だして笑った。

ロンと住民の間で会話はほぼ成り立ってないし、ロンとジュン・リリーも会話が多いわけではないのだが、住民がロンを気にいる理由とか、彼らが徐々にお互いを大事に思っていくのはなんとなくわかる。展開が自然で、妙に笑えるので私はすごく好きでした。

 

ただ回想シーンなどのリリーの悲劇性を強調するシーンだけ、どこか他の映画から悲劇の女のシーンを抜き出して取り付けたみたいで残念だった。なんかどっかで観たことあるシーンの寄せ集め感がすごくて、お?これは映画の悲劇性を演出するために女の不幸を使うやつか?と思ったし今も思っている。他のシーンが好きだっただけに残念だった。

 

これもU-NEXTで観ました!

ハーレイ・クインの華麗なる覚醒 BIRDS OF PREY(Birds of Prey)

これは劇場で観た方も多いでしょう!ハーレイ・クインの華麗なる覚醒。U-NEXT・Amazon Primeだと課金がいるけどNetflixだといらないです。

悪のカリスマ=ジョーカーと別れ、すべての束縛から解放されて覚醒したハーレイ・クイン。モラルのない天真爛漫な暴れっぷりで街中の悪党たちの恨みを買う彼女は、謎のダイヤを盗んだ少女カサンドラをめぐって、残忍でサイコな敵ブラックマスクと対立。その容赦のない戦いに向け、ハーレイはクセ者だらけの新たな最凶チームを結成する。

(引用:https://eiga.com/movie/90686/

アドレナリンがどばどば出る映画だった。サイコー!!!

まず、ハーレイは映画の冒頭でジョーカーとのロマンスが始まった工場の付近を落ち込みながらフラフラ歩いているのだが、トラクターを見つけると「I have the best idea!」と叫び、トラクターを奪って工場に突っ込ませ、爆破する。爆破と言えど、ピンクや青や緑のカラフルな炎がどーんと打ち上がり、祝福の花火みたいだ。

ハーレイがやってることは無茶苦茶だし、トラクターを盗まれた運転手からしたらbest ideaじゃねえよという感じだが、爆破がすごく綺麗で同情を忘れてぶち上がってしまう。そして粉末を背景に浮き上がる「BIRDS OF PREY AND THE FANTABULOUS EMANCIPATION OF ONE HARLEY QUINN」のタイトル!

www.youtube.com

工場を爆破したことでジョーカーと別れたことが公になり、今までのハーレイの悪行をジョーカーへの恐怖を元に見逃していた人々に、ハーレイは追われることになる。逃亡したりなんやかんやにうちに、ハーレイの他にも色々な背景を持った女性が4人集まり、みんなで協力して敵やラスボス・ブラックマスクに挑むというさいこ〜な映画だ。

 

ブラックマスクを演じたユアン・マクレガーがこのインタビューで語っている通り、この映画のセリフには女性が日常的に体験する女性差別が詰まっている。

t.co

一番ぐさっときたのは、ハーレイが最後仲間に「Sorry, I underestimated you.(ごめん、あなたを過小評価してた)」と言われて、「It's okay, I'm used to it.(大丈夫、慣れてるから)」と返すところだ。男性キャラクターが言う女性差別的なセリフにもハーレイは真っ向から反論はしないのだが、それがすごくリアルで心臓にくる。

しかし、ハーレイが現実と違うところは、とにかく強い&暴力を振るうことにためらいがないところである。男性キャラクターがハーレイに自分の保護が必要だとかジョーカーなしでは何者でもないとかクソゴミ発言をかました次の瞬間、彼らはハーレイの金属バッドやハンマーによって派手に葬られる。

男性キャラクターがハーレイや他の女性キャラクターに投げかける言葉が、日常的に女性がかけられる台詞だからこそ、彼女たちが彼らを圧倒的優勢でぶん殴る姿の爽快感が半端ない。

 

また、ブラックマスクがラスボスと思いきや一人になると激弱なのがウケた。ブラックマスクの強さは富と群がる子分たちで構成されていたのであり、本人にハーレイに対抗する力がある訳ではなかったのだ。ヒーロー映画と思えばブラックマスクがあっさりと引き腰になるのは味気ないが、「ブラックマスク=女性差別的な権力者」と思えばどうか?

 

タイトルにある「emancipation」とは、普通「解放」と訳されることが多いと思うが、「覚醒」と訳したのもすごくいいなと思った。解放というと縛っていた存在(=ジョーカー、男女差別)の影をいやでも感じざるを得ないが、覚醒というとそういった影に付きまとわれることなく、本来の自分が開花したという感じがする。ブラックマスクはハーレイは自分の保護が必要だと言うが、ハーレイが自身の力を発揮するためには、お前は要らないのだ。

www.youtube.com

ハスラーズ(Hustlers)

これもU-NEXTとアマプラだと課金がいるが、Netflixなら無しで観れる。

ハーレイ・クインと同じく、痛快な女性たちの物語として宣伝されていた映画だと思う。ハーレイ・クインはその通りだが、ハスラーズは私は痛みの方を感じて数日間思い出しては気分が落ち込んだ。実話を元にしているだけある。

リーマンショック後のニューヨークを舞台に、ストリップクラブで働く女性たちがウォール街の裕福なサラリーマンたちから大金を奪う計画を立てたという実話を、ジェニファー・ロペスと「クレイジー・リッチ!」のコンスタンス・ウーのダブル主演で映画化。

年老いた祖母を養うためストリップクラブで働き始めたデスティニーは、そこでひときわ輝くストリッパーのラモーナと出会う。ストリッパーとしての稼ぎ方を学び、ようやく安定した生活が送れるようになってきたデスティニーだったが、2008年に起こったリーマンショックによって経済は冷え込み、不況の波はストリップクラブで働く彼女たちにも押し寄せる。いくら働いても自分たちの生活は向上しない一方、経済危機を起こした張本人であるウォール街のエリートたちの裕福な暮らしは変わらず、その現実に不満を募らせたラモーナが、デスティニーやクラブの仲間を誘い、ウォール街の裕福なクライアントから大金をだましとる計画を企てる。

(引用:https://eiga.com/movie/91824/

主役を張ったコンスタンス・ウージェニファー・ロペスも、めちゃくちゃ演技が上手い。ジェニファー・ロペスは華やかさと包容力が圧倒的で、まさにストリッパーみんなに慕われ、憧れられる存在・ラモーナである。物語の語り手であるデスティニーは、登場人物の中で一番感情やラモーナとの関係のぶれを細かく映されていると思うが、コンスタンス・ウーの演技はすごく自然で説得力がある。Crazy Rich Asiansの時よりよっぽど当たり役だと思う。

また、冒頭にCardi BやLizzoなど、今をきらめく𝒬𝓊ℯℯ𝓃𝓈が登場して、デスティニーやラモーナと共に金を稼ぎまくるのは確かに爽快だ。

 

しかし、詐欺を計画する段になると、100%爽快感!痛快!とは思えなかった。

理由の一つに、騙された金融マンたちが、ものすごく悪い奴としては描かれていないことがある。

ストリッパーたちを屈辱的に扱う男たちは登場するが、彼女たちが金を騙し取る相手は、彼女たちを踏みつける描写が明確にはない金融マンも含まれている。ウォール街で働いた後にバーで飲んでいたら彼女たちに声をかけられて、舞い上がって話している間にドリンクにドラッグを入れられるみたいな…。景気が良かった頃の昔の顧客もターゲットにされるが、映画の中で「景気が良かった頃」は、デスティニーやラモーナにとってうまくやれば客から大金を取れる良い時代として描かれており、彼らが彼女たちを搾取した様子はわかりやすくは描かれていない。

彼女たちがこのやり方を取ったのはすごくリアルだろう。彼女たちは悪を成敗するスーパーヒーローではなく、経済危機でまともな職がなく、ストリップクラブに戻ったとしても稼げないどころか性被害にまで遭う労働者なのだ。誰にも頼らず生活するために詐欺を働いているのであって、今まで自分たちを踏みつけた人々を精査して成敗するためではない。

 

しかし、ターゲットを見極めなかったことが一因となって、結局彼女たちの計画は止められる。

もう1つの痛快と思えなかった理由は、最終的に状況があまり改善されているようには思えないことだ。この映画はハッピーエンドではない。この計画が露呈したところで労働者の権利を保証する仕組みができた訳でもなく、ウォール街のエリートたちは変わらず裕福な暮らしをし、ストリップクラブでは適正価格を払わずにストリッパーを搾取しようとするんだろう。

気分が落ち込んだのは、法律も含めて、この社会のルールはラモーナやデスティニーのような人間にとって圧倒的に不利にできているということを再度突きつけられたからだと思う。そして、私はそのルールの上でだいぶ得をしている。デスティニーを取材する女性記者が登場するが、私はすごくこの人に似ているなと思った。

www.youtube.com

ボーイズクラブを拒否するKacey Musgraves「Good Ol’ Boys Club」

この曲は私の応援歌なのですが、和訳がネット上に存在しないことに気づいたのでざっと訳して上げます。

I don't need a membership to validate

The hard work I've put in and the dues I've paid

Never been too good at just goin' along

I guess I've always kinda been for the underdog

自分の仕事を証明するのに

会員証はいらない

「うまくやる」のはそんなに得意じゃなくて

どっちかといえば負け組にいる方が好きなんだと思う

 

Favors for friends will get you in and get you far

Shouldn't be about who it is you know

But about how good you are

お友達同士の融通で仲良しグループを作ったり上に行ったり

大事なのは誰を知ってるかじゃなくて

自分が何ができるかじゃないの?

 

Don't wanna be part of the good ol' boys club

Cigars and handshakes, appreciate you, but no, thanks

Another gear in a big machine don't sound like fun to me

Don't wanna be part of the good ol' boys club

古き良きボーイズクラブには入りたくない

葉巻に握手、申し出はありがたいけどいらない

私まで機械の歯車になるのは楽しそうじゃないから

古き良きボーイズクラブには入りたくない

 

There's a million ways to dream and that's just fine

Oh, but I ain't losin' any sleep at night

And if I end up goin' down in flames

Well, at least I know I did it my own way

夢の見方は色々あるから勝手にすればいい

でも私は今日絶対に朝まで付き合ったりしないから

最終的に炎上して落ちていくとしても

少なくとも自分のやり方でできたんだからそれでいい

 

Hey, hey, ey, ey

 

Don't wanna be part of the good ol' boys club

Cigars and handshakes, appreciate you, but no, thanks

Another gear in a big machine don't sound like fun to me

I don't wanna be part of the good ol' boys club

古き良きボーイズクラブには入りたくない

煙草に握手、申し出はありがたいけどいらない

私まで機械の歯車になるのは楽しそうじゃないから

古き良きボーイズクラブには入りたくない

 

Favors for friends will get you in and they'll get you far

But when did it become about who you know

And not about how good you are?

お友達同士の融通で仲良しグループを作ったり上に行ったり

大事なのは誰を知ってるかじゃなくて

自分が何ができるかじゃないの?

 

Don't wanna be part of the good ol' boys club

Cigars and handshakes, appreciate you, but no, thanks

Another gear in a big machine don't sound like fun to me

I don't wanna be part of the good ol' boys club

I don't wanna be part of your good ol' boys club

古き良きボーイズクラブには入りたくない

煙草に握手、申し出はありがたいけどいらない

私まで機械の歯車になるのは楽しそうじゃないから

古き良きボーイズクラブには入りたくない

古き良きボーイズクラブには入りたくない

「Good ol' boys」とはWeblioの辞書によると「気さくで陽気な態度、保守的または偏狭な態度、強い仲間意識と彼の仲間集団への忠誠を持つ白人男性の南部人」と説明されています。

別に白人男性の南部人には限らないので、この曲でのgood ol' boys clubとは「保守的または偏狭な態度、強い仲間意識とお互いへの忠誠心を持つ男性たちの仲間集団」って感じかな。最近ホモソーシャルという言葉が日本でも広まってきましたが、これに近いと思います。

大体の社会でこういう集団が権力の中心にはいるわけだが、それを「Another gear in a big machine」とサクッと切り捨てるのが気持ちいい。なんだかんだ言いつつ規範に逆らうのは難しいが、Kaceyの穏やかだけどどこか皮肉な歌声が戦う余裕を与えてくれる気がします。

面白かった中華ドラマ感想まとめ

鳳凰の飛翔(天盛长歌)

これ私の中で永遠に1位な気がする…感想はこちらで書きました↓

musicallyrics.hatenablog.com

琅琊榜

麒麟の才子を得た者が天下を得る”という情報を聞きつけた皇太子と第五皇子は、麒麟の才子=江左盟(こうさめい)の宗主・梅長蘇の獲得に乗り出す。しかし彼の正体は、12年前に後継者争いが原因で壊滅させられた、赤焔軍の生き残りの林殊だった!! そんな梅長蘇=林殊は、いいなずけだった穆霓凰と再会。猛毒により、以前とは違う容貌の彼に、林殊の面影を感じた霓凰は…。

(引用:https://tsutaya.tsite.jp/item/movie/PTA0000QEXH9

おすすめ中国ドラマ一覧みたいなやつで絶対出てくる琅琊榜。友達に勧められてU-NEXTで完走した結果、人気の理由にものすごく納得しました。全54話。

 

色々魅力はあるんだけど、一番印象に残るのはストーリーの無駄のなさ!

話数が多い中国ドラマは「途中でダレる」があるあるらしく、確かに鳳凰の飛翔も最後の方このエピソードなんのために入れたんみたいなものがあったが、琅琊榜は全54話、一切ダレません。54話ずっと面白い。すごい。

私は頭を使うような権謀術数の話がだ〜〜〜〜い好きなので、「皇帝になる可能性ほぼ0の皇子を、主人公が権謀術数を用いて皇帝まで押し上げる!」でどんな策略を用いるのかっていうのだけでワクワクできるし、全キャラクターの人格の書き込みがしっかりしているので、彼らの行動の背景が納得できるのも良かったです。

策略っていうのは大体この人物がこう行動しなかったらそもそも成立しないよねみたいな部分によって構成されると思うけど、琅琊榜ではなぜその人物がその行動に至るのかの説明が、毎回直接的であり間接的でありきちんとなされてるんですよね。

「いや、ご都合主義〜」みたいに思うことが一回もないのが地味にスゴイ。完成度が高い。

 

あと最後まで観て思ったけど、完全にブロマンスドラマでした。

一応霓凰郡主というカッコイイ女性が主人公の恋相手だけど、最初こそ彼女が物語の中心になるものの途中から僻地に飛ばされ、影が薄くなります。

入れ替わりに靖王と主人公の過去から現在まで続く絆がフォーカスされ、ここらへんはもう完全にブロマンスでした。霓凰郡主は最後にまた存在感を発揮するし、最後までお互いを大事に思っているのは伝わってくるけど、それでも靖王と主人公の関係の方がアツさがすごい。

f:id:musicallyrics:20200901143251p:plain

http://tv.cntv.cn/video/VSET10/286226830a2d405981c6adcb3f074a54

これ日本のドラマだったら友達が死ぬほどツイートしてそうだなと思っていたら、

Q:琅琊榜ってどんな話?
A:ヒロイン要素しかない男二人の奥ゆかしい百合物語。決して薔薇ではない。

 (引用:https://kokontouzai.org/nirvana-in-fire/#toc14 

同じこと思ってる人いた🤣 同じブログから、

また、「なんでヒロインが途中から消えるのか」というインタビューで胡歌は品を作りながら言ってるもの。「僕がヒロインだから」って。 

ってあって、マジで言ったん?!って思ってインタビュー探したら本当に言ってました。

f:id:musicallyrics:20200801160336p:plain

https://www.youtube.com/watch?v=NWbOHfLzD_o

キャワイイ。 胡歌はなんか地味にボディブローみたいに効いてくる美しさがある…。*1

 

本当に本当に面白かった!!ちょっと切ない部分もあるけど、悲劇ではないのでトラウマにもならないと思います!(大事)

瓔珞~紫禁城に燃ゆる逆襲の王妃~(延禧攻略)

女官として後宮に入り繍坊で働き始めた魏瓔珞は、持ち前の正義感と頭脳で数々の試練を乗り越えていく一方、ある目的のために密かに行動する。それは後宮で謎の死を遂げた姉の死の真相を突き止めることであった…。

彼女は富察皇后の弟・傅恒を犯人と疑い近づくが、意に反して彼に惹かれていく。同時に、思いがけず乾隆帝からも好意を寄せられ、愛憎渦巻く宮廷で波乱の人生を歩むことに…。

妃や女官たちの陰謀に晒されながらも、常にそれを上回る知略で相手を追い詰めていく瓔珞の大逆転劇に胸がすく!

(引用:https://kandera.jp/sp/eiraku/

これもほんとにほんとに面白かった!!!!!

 

後宮モノは他にもいくつか観たけど、なんかだいたい、主人公は最初は優しく皇帝への愛が深く、他の妃たちのいじめにも耐えることが多かったのですよ。美しく慎み深く、ジェンダー規範の申し子みたいな。天真爛漫で意表をつく行動しちゃう系主人公でも、それは男が可愛いと思う範囲であり、皇帝の脅威にはならないから愛される。日本の時代劇はほぼ観たことないからわかんないけど、皇帝を将軍とかに置き換えたら似たようなもんなのかな?

まあ時代劇なので当時はそういう価値観だろうけど、その価値観を批判なしに受け入れてキャラクター造形がなされてると、結局全員一緒やんみたいになって入り込めなかったんですね私は。

 

が!!!このドラマの主人公・璎珞は違った。最初からメチャクチャやり返します。

急須で自分の布団に水をかけられたらバケツで水を汲んできて布団と相手にぶっかける、頬を叩かれたらその場で叩き返す。

第2話で璎珞が言い放つ「私は生来気性が荒く、怒らせると怖いの」という台詞が彼女の気質を端的に表している。ドラマ内で璎珞を踏みにじったら皇帝だろうと徹底的にやり返すんだろうなという気概がある。

f:id:musicallyrics:20200926204820p:plain

f:id:musicallyrics:20200926204824p:plain

f:id:musicallyrics:20200926204834p:plain

f:id:musicallyrics:20200926204938p:plain

f:id:musicallyrics:20200926204942p:plain

f:id:musicallyrics:20200926204951p:plain

こんな予告編見たことないんよ。


さらに、このドラマの面白いのが、璎珞がこのような気質になった理由が特に描かれていないところなんですよね。

前述の通り、私が観た他の宮廷劇だと、女の主人公は割とはじめ慎しみ深くやられてもすぐにはやり返さないことが多かったんですね。最終的に皇帝の脅威になるにしても、「周囲からの攻撃が続いたことによって」その気質がだんだん変化する様子が描かれます。最初から性格がやばい悪役でさえも、死ぬ直前に「孤独だった」「愛に飢えていた」とか、彼女たちがそのような気質になった不幸な理由が必ずと言っていいほど描かれていました。

これが琅琊榜のような、男性同士の権力争いの話になると、陥れられてやり返そうと、「彼をやられたらやり返す性格にした不幸な背景」は描かれないと思うんだよな。男が戦いやり返すのは当たり前なので。

私は女だけど、殴られたら殴り返す。それは自分の尊厳を守るために必要なことであって、別に「不幸な背景」もクソもねえけど、といつも思っていました。

だから璎珞を見て、キターーー!!!!!!!って思った。

 

また、璎珞は皇后に引き立てられ、お気に入りの女官として重用されます。皇帝が激おこの時も皇后は璎珞をかばうのだが、皇帝になぜそこまでかばうのかと聞かれこう答えます。

璎珞は私の希望です。

何事も夫を一番と考え、夫を敬う。夫の考えを自分の考えとする。それが世の女子の徳なら、国の母である私が守るのは当然のこと。

でも陛下、私は、私自身ではなくなりました。嫁いだあの日から、富察容音は消えたのです。私は女子の徳に縛られております。

陛下、私は、自分を捨てたことで、今の私になりました。だから璎珞を守るのは、無くした私を守るのと同じ。

皇后は完璧な人物として描かれていて、誰のことも陥れず、皇帝を愛し、妃嬪を守り、人々に慕われ愛されています。

しかしそのような完璧な人物が、女の徳を完璧に実行した故に、女の徳に押しつぶされてしまう。

f:id:musicallyrics:20201013145040p:plain

メッッチャ美しい皇后

一方、女の徳ガン無視の璎珞の行動で特にすごいのが、皇帝が璎珞に対して後宮の女性は視野が狭い…と嘆くシーンでの璎珞の返答。

女子は生まれた時より家という籠の中で育ちます。嫁いだとしても別の籠に移っただけのこと。籠の中しか知らぬ高麗鶯が、鷹のように広い視野を持てましょうか。お忘れなく。その籠を作ったのは男です。 

これはマジで完全に社会批判であり、その社会を作り上げておきながら責任を女性に負わせる皇帝への批判ですよね。案の定皇帝には放肆!と怒鳴られるわけですが。

 

そんな璎珞を皇后は妬むのではなく、自身の希望として愛し守り抜くのも、物語のメッセージが徹底していて好きです。

 

このドラマは新しい、スカッとする、現代的、と評されることが多いけれども、時代劇にありがちなミソジニーを見つめ直したキャラクター造形が、そのような評価を支えているように思います。

范冰冰主演の「武則天」が、唯一の女性の皇帝とうたってるから、さぞかし野心に燃えてて面白い女性を描くだろうと思ったけど真逆でがっかりした後にこのドラマを観たので、スカッとして楽しかったなあ。*2

ただ一方で、このドラマで展開されるジェンダー批判を現代にも通じるものとして解釈するか否かは見ている側に完全に委ねられているので、「昔はやばかったけど今は良い時代」で終わらせられる危険性はある。

中国のジェンダーの専門家による批評が読みたい!と思うドラマでした。

 

1話が無料かつ日本語字幕でYouTubeでみれる!

www.youtube.com

沉默的真相

全12話の刑事ドラマ。

ちょっと前まで爱奇艺がYouTubeアカウントで全話配信してました。今はYouTubeに2話までしかないけど、爱奇艺の海外向けサイトor海外向けアプリに飛べば中国語+英語字幕付きで全部見られます。2020年11月時点だと全話無料だと思うけど、時間経つと有料になるかも。

www.youtube.com

一見単純な自殺事件には、巨大な秘密が隠されていた。この秘密を暴くために、ある人々は7年を費やし、数え切れないほどの代償を払い、さらには自分の命を危険にさらした ...... かつて有望な検察官であった江阳は、賄賂と汚職を受けて刑務所で3年間服役した後、スーツケースの中でうずくまっている死体として、世間の目に再浮上する。 彼の遺体を運んできたのは、地元で有名な弁護士の张超だった。 事件は人々の注目を集め、刑事の严良が事件を担当することになる。 张超は犯行を一度自白するが、判決を受ける場で突然自白を撤回、アリバイを明らかにして事件は膠着状態に陥る。

(引用:https://movie.douban.com/subject/33447642/

ものすごく完成度の高いドラマだなと思いました。 3つの時系列で話が進んでいくんですが、見せ方がうまいので混乱しない。私が観た他の刑事物(日本でもアメリカでも)だと、現在の捜査に尺が割かれることが多かった気がするけど、このドラマは過去の語りに多く尺を割いているので、事件に関わる人々の行動の動機が納得がいくし、感情移入するからつらい。

事件自体もひどいのだが、その事件が起きた後、周りの人間がどのようにその事件にどう折り合いをつけるのか、折り合いがつけられない時どう変わるのか、を描いている。ぶっちゃけアイディア自体はこれだけ聞くと映画でもドラマでもよくある気はするが、脚本の緻密さと演技の上手さで完成度高く成立している。

あと、登場人物が食べてるご飯が美味しそうすぎる。火鍋を囲む絵がちょくちょく出てくるんだけど、鍋の中めっちゃ見ちゃう。

ミステリーとか刑事ドラマ好きな人絶対好きです。隐秘的角落(原作者が同じで、同じく大ヒットしたミステリードラマ。私は今観てるところ)がWOWWOWで配信決定したそうなので、これも日本でもすぐ配信される気がするな!

バーニング・アイス(无证之罪)

息も凍りそうな冬のある日。中国東北地方の架空の大都市・哈松で、地元の運送会社社長、孫紅運の死体が見つかる。遺体は雪だるまにくくりつけられており、そこには警察をあざ笑うかのように「私を捕まえてください」という貼り紙があった。警察はその手口から、3年前から市内で起きている未解決の“雪だるま連続殺人事件”と断定。刑事・林奇をリーダーとする捜査チームを立ち上げ、あるミスから交番勤務となっていた刑事の厳良もそこに合流する。一方、法律事務所で働く青年・郭羽は、初恋の人・朱慧茹が孫紅運の愛人であり、事件の重要参考人であると知る。郭羽は朱慧如の助けになろうと奔走するが、二人は思わぬ事件を引き起こしてしまう。その時、パニックに陥る彼らの前に謎めいた男・駱聞が現れ、事件の隠ぺいを提案してくる。果たして彼の正体は…?

(引用:https://www.welovek.jp/burningice/) 

U-NEXTで観ました。全12話!

このドラマと、沉默的真相、隐秘的角落は原作者が同じらしくて、ドラマ版も構成が結構似ている。最初にもう犯人とかはわかっていて、その事実を知った人々がどう動くか、みたいなのに焦点が当てられています。

このドラマも、半分くらいで黒幕まで全部明らかになるし、主人公・严良の推理は最初から全部当たってるんだけど、彼らを逮捕するための証拠がない。それでも事件に関連する人物を追っていくうちにまた新しい展開があって…という流れ。沉默的真相、隐秘的角落と比べて警察目線のシーンが多いので、ミステリー・サスペンス要素は強いかな。

 

私は3つの中ではこの无证之罪が一番好きですね。社会問題を描くという点では沉默的真相の方が尺を割いていると思うけど、私は単純に、秦昊演じる严良が好きすぎました。

ぶっちゃけキャラ設定としては、自由奔放で周りを困らせるけど実は人情に厚い刑事っていうまあ使い古されてきた感じなんだけど、この設定に秦昊の外見と演技がすご〜〜〜いハマってた。私が秦昊の顔が好きなだけかもしれないけど・・・(え・・・秦昊かっこよすぎん・・・?と思って、彼が出ててしかも陈坤が主演の映画「火锅英雄」を観たんだけど、こっちはクソつまんなかったw)

f:id:musicallyrics:20201108105649p:plain

https://www.youtube.com/watch?v=2-Znpv-dReE

あと、これは沉默的真相の時も思ったけど、チームのボスが女性なのだが、変に「有能・デキる女上司」的なステレオタイプを押し付けられてないのがよかったな。同じ原作者・製作チームで作った、女性が主人公のドラマを観たいなと思いました。

あとやっぱ飯がうまそうすぎる。朱慧茹の兄が料理屋を開いているんだけど、そこでのシーンはいちいちそこで出てる料理とか壁にかけられたメニューに目がいって集中できんかった。旅行してえ〜

霊剣山(从前有座灵剑山)

9つの国々が深刻な危機に陥った幻想の世界。青年はある組織に加入し、短気で口の悪い師匠のもとで修行を始める。無限の可能性を秘めた彼の物語が、幕を開ける。

(引用:https://www.netflix.com/title/81208888

全37話。Netflixで観ました。

 

他のドラマと一味違う感じで面白かった!

ジャンプ漫画にありそうな、漫画をそのまんま現実世界に持ってきたような。と思ってたら、元はウェブ小説で先にアニメ化されて、その後このドラマが来たらしい。

 

主人公の王陆がもう本当〜〜〜に「主人公!!」っていう顔なんよね!!

延禧攻略でみんな大好きイケメン富察傅恒を演じた许凯だった。全然キャラ違うけど。

二次元から三次元に飛び込んできたみたいな、丸くて大きい瞳、シュッと整った眉毛、ニヤッと片方だけ上がる口元。トレースしたらそのまんまアニメに使えそう。

f:id:musicallyrics:20200901141839p:plain

https://www.youtube.com/watch?v=2Oy6c03Odjk

師匠の王舞はどこからどう見ても美女だけど、すぐ金儲けに走ったりズルをしたり人を小馬鹿にしたりする設定で美しい顔を歪めまくる演技が楽しい。

f:id:musicallyrics:20200901142045p:plain

https://www.youtube.com/watch?v=2Oy6c03Odjk

あと、琉璃仙役の郭晓婷が超〜〜〜〜〜かわいい!!!若曦にも出てたけど、こっちのドラマの方が髪型と衣装が似合っててびっくりするかわいさ。

f:id:musicallyrics:20200926212159p:plain

https://www.youtube.com/watch?v=2Oy6c03Odjk&t=2411s

話の進め方が適当なとこも多々あったけど(特に最後)、登場人物とビジュアルが好きだと多少のプロットの穴はどうでもよくなりますね。セリフとかギャグとか衣装、CG、セットが細部まで綺麗だし、武侠ものや仙人ものを詰め込んだ中国文化全開仕立てが新鮮でよかったです。

宮廷の諍い女(甄嬛伝)

清朝宮廷ドラマの最高傑作。18世紀の清を舞台に、閉ざされた後宮の中で過酷な仕打ちに立ち向かい、愛を失いながらも権力を手に入れていく1人の女性・甄嬛(しんけい)の姿を描く。

(引用:https://www.ch-ginga.jp/feature/isakaime/ 

全76話。U-NEXTにあります。

中国ドラマにハマり始めた時からいろんなブログでお勧めされているのを見て、結構楽しみにしてたんですが。10話くらいで挫折…。野心に燃える人間が最初あんま出てこなくて、登場人物がいまいち好きになれなかったんですよね。人が好きじゃないと78話観るのはきつい…

 

ということで途中で挫折したんですが、なんとNetflixにダイジェスト版がありました!!!

90分×6話で、物語の本当に大事なところだけかき集めた感じ。登場人物は頭に入っててどうなるかは知りたいけど80話観る元気はない私にはぴったりでした。このダイジェスト版、2020年8月31日に公開終了しちゃったんだけど、存在に気づいたのがちょうどその日の夜で、そこから全速力で6時間くらいぶっ続けて観て、最後の方は間に合わなかったのでU-NEXTで観直した🤣(勉強しろ)

 

前評判通りえぐかった!!!

妃たちだけでなく皇帝もダントツでえぐい。後宮ドラマは毒殺するとか残虐な刑を与えるとかはあるあるだけど、このドラマは出てくる罠とか黒幕とか殺し方に残酷なオリジナリティを発揮してくる。心臓がヒュッてなる、もはや夏の暑い日に観たいホラー。

 

個人的に、主人公が皇帝を愛してる間はそんな面白くなかったんだけど、皇帝に絶望し、もう一人の男とも引き裂かれて完全に後宮に対する反撃に転ずるところからが、ゾクゾクするほど面白かった。淡々と自分や愛する人たちを陥れた人々を始末していきます。化粧も変わるし目がもう違うよね。

目が変わってからのエピソードは、面白すぎたので本編でじっくり観ました。

中国に興味を持つ前から「宮廷の諍い女」というタイトルだけは聞いたことがあったんだけど、人気ドラマにはそれなりの理由があるんだなあと今更納得しました。

 

妖猫伝(空海-KU-KAI- 美しき王妃の謎)

これは全然ドラマじゃなくて映画なんですが、私は結構好きだった割に評価されてないので擁護しておきたい。

1200年以上前、日本から遣唐使として中国・唐へ渡った若き天才僧侶・空海。 あるきっかけで知り合った白楽天という詩人との交流を深めていく中、世界最大の都・長安は、権力者が次々と奇妙な死を遂げるという、王朝を震撼させる怪事件に見舞われる。空海は、白楽天とともに一連の事件を探るうちに、約50年前に同じく唐に渡ったもう一人の日本人・阿倍仲麻呂の存在を知る。 仲麻呂が仕えた玄宗皇帝の時代、そこには国中を狂わせた絶世の美女、楊貴妃がいた。極楽の宴、妖猫の呪い、楊貴妃の真実、歴史を揺るがす巨大な「謎」――。 楊貴妃の命を案じた阿倍仲麻呂は何を知っていたのか…? 海を渡った若き天才僧侶・空海と、中国が生んだ稀代の詩人・白楽天。二人はやがて、歴史に隠された哀しき運命と対峙することとなる…。

(引用:https://www.amazon.co.jp/gp/video/detail/B07GNV1N3G/ref=atv_dp_share_cu_r

日本で低評価の理由の8割くらいが邦題に起因してて、「空海-KU-KAI- 美しき王妃の謎」って言うと空海がメインの話かと思うけど、これは原題の「妖猫伝」が正しい。猫。猫が鍵なんですわ。空海は探偵みたいな役割で、彼の人間性はほとんど掘り下げられていないので、そこに期待してはならぬ。あと、日本人作家?の夢枕獏の小説をベースにしてると言いつつ全然原作に沿ってないらしいし、時代考証はあってないようなものなのでそこにも期待してはいけない。

 

この映画は「楊貴妃の死の謎を解く」映画だと思って観るといいと思います。前半は猫が暴れまわって結構意味不明だけど、中盤くらいからなぜ猫が暴れ回るのか?という背景が明らかになると、楊貴妃玄宗楊貴妃に惚れた男たちの話、そして楊貴妃が亡くなった真相の話になるんです。

私は、この映画における楊貴妃の空虚さが面白いなと思いました。みんなが知る絶世の美女・楊貴妃をマジモンの絶世の美女・张榕容が演じ、登場する男性はみんな楊貴妃に惹かれるけど、楊貴妃の生い立ちどころかそれぞれの男性たちへの思いさえほとんど描かれていなくてまったくわからない。

楊貴妃を慕う男性たちも、楊貴妃に惹かれているのではなく、楊貴妃が発した言葉をいいように解釈して自分の理想を投影しているように見えました。

そしてそれを真実の愛!と言って心酔する白居易

陈凯歌がこれを意図して製作したのかはわからないけど、私はこのみんな楊貴妃を見つめているようで自分だけを覗き込んでいる感じが好きでした。恋愛あるある、恋愛を題材にした創作物あるある。

唯一、主人公の空海が常に感情が全然表面に出ず「無」「微笑」って感じで、楊貴妃自身にもそんなに興味がなさげだが、楊貴妃の苦しみがわかった瞬間だけ取り乱すのが一番楊貴妃自身を見てるんじゃないかと思ったなあ。楊貴妃空海が直接出会ったらどんな会話を交わすのか興味あります。

www.youtube.com

*1:このインタビューで役者の一人が「琅琊榜は男の物語だからヒロインが途中で消える。男は国家とか兄弟の絆を大切にする。女が大事にするのは…愛とか?笑」とか言ってるのがクソ萎えて中指を立てたけど、実際ドラマの中では霓凰郡主もそこまでミソジニーを被ってはいないと思います。というか、彼女は雲南の守備を任されるというゴリゴリの国家権力なんよな。国家権力どうこうを置いても人格もきちんと考えられていて、他の女性キャラクターたちも男に比べて数は少ないけど魅力ある女性たちなので、私みたいにミソジニーが分かり易すぎると死ねや!!!!!となる人も安心して観れると思います。

*2:歴史上活躍した女性の例に漏れず、武則天も「己の野心のために王朝を滅ぼした悪の女」というミソジニーバリバリの評価を受けてきたわけですが、このドラマはその評価を書き換えたいのか、「(己の野心ではなく)皇帝と国への愛のため、(仕方なく)権力を手にした」女として描かれています。「己の野心のために王朝を滅ぼした悪の女」という従来の評価は「男が野心を持つのは良いけど女が持つのはダメ、なぜなら女が野心を持つと男を脅かすから」という男尊女卑観念が元にあるが、新しい武則天像を描こうとしたこのドラマも(武則天個人の知性や慈愛は肯定的に描きつつも)彼女の野心をこれでもかと否定することで、結局この観念に乗っ取ってるんよね。